「適切な軋轢の取りまわし方は、実はとてもクリエイティブなメソッドになります。積極的に軋轢をつくり、それを糧にその先の価値にたどり着く流れをつくる。もちろん、それにはスキルが必要で、時には遭難してしまうこともあるでしょう。なので失敗を許容することも大切。失敗を恐れずチャレンジしないと、ありきたりの答えしか出ません。安心して軋轢や失敗が体験できるという場として、CFIが機能すれば良いと考えています」
最後に必要となるのは、新しい方法や理論を生み出すことだ。既存の方法論をなぞらえているだけでは、対応し切れない。例えば、MBAやクリティカルシンキングで社会課題を解決するようなアプローチが長らくもてはやされてきたが、アートやデザイン思考、哲学など、より柔軟に、より深く思考することが、未来に求められる価値を築くために必要だ。
「メディアアーティストが、メディア技術の新たなコンテンツを作るだけでなく、メディアそのものから問い直し、つくり変える作業を繰り返すように、あらゆるジャンルにおいて方法論からつくり直す必要が出ています。カチッとしたものをつくって長期に活用するのではなく、即興的にその場その場で適切な理論を生み出しては壊す、というアプローチが必要です」
クリエイティブ・フューチャリストを輩出するCFIは今後、ソニーの協力によりNPO/NGOセクターとの協働機会や海外の大学・アート機関との連携も視野に入れ、フィールドワークや国際的な活動にも力を入れていく。また一般の社会人も参加できるシンポジウム・展示・研究発表会などの機会を設け、国内外に向けて広くその成果を公開していくという。
「CFIは、言わばどこにもカテゴライズされない在り方を生み出すプロジェクト。最近、xlab Showcase 2024という僕の研究室の展覧会を行ったのですが、そのテーマを“Well-tangled ー混沌と調和”としたんです。異なる要素が複雑に絡み合い(tangled)ながらも、人間と技術、自然とデジタル、物質と非物質による相互作用などを通して、新たな価値を創造するという意味で、クリエイティブ・フューチャリスト的な在り方を示した展示です。
人間中心の視点を超え、すべてが溶け合いながら、異なる存在が共存する状態が、これからの世界では求められる。そのような未来の社会でベストプラクティスを組成していくのが、クリエイティブ・フューチャリストの役割です」
筧 康明◎東京大学大学院情報学環教授。博士(学際情報学)。物理素材特性とデジタル技術を掛け合わせたインタラクティブメディア研究を推進。工学・アート・デザインの分野を越境し、SIGGRAPH、Ars Electronica Festival、ICCなど国内外での作品展示や、STARTS PRIZE 2022 Honorable Mention、第23回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞、2012年グッドデザイン賞BEST100など受賞多数。