「正しく、仲間とやり抜く」世代を超えても変わらぬリーダーの本質

(写真左)南壮一郎|ビジョナル代表取締役社長(同右)野呂侑希|燈代表取締役CEO

『Forbes JAPAN』起業家ランキング受賞者・評価委員と、30 UNDER 30受賞者。47歳と24歳。世代を超えて交流する経営者ふたりが大切にしていること。


「野呂さんのほうが、僕よりずっと昭和っぽいですよ」

ビジョナル社長の南壮一郎は隣に座る燈CEOの野呂侑希を、笑顔で紹介した。出会いは2022年のForbes JAPAN主催の100人規模のガラディナー。「面識はなかったが、突撃した」という野呂が、短く伝えたのは3つ。高校時代から南に憧れをもっていたこと。東京大学松尾研究室発のAI企業を創業し、建設業界のDX事業をしてること。そして、資金調達をせず、自己資本で利益を出す経営で急成長していること。南は瞬時に「本質的で信用できる」と思ったという。

「大きな市場で、顧客の課題解決をし、地道に地味に出した利益の再投資で成長する。自分の経営スタイルと一緒。何より、野呂さんのその時の目が良かった」

野呂は19歳でつくった会社の代表を譲り、21歳で燈を創業。自分がやっていることは正しいとの確信をもち、人生をかけてやりきれるテーマを探し、最初に選んだのが建設業界。AIでの巨大市場への挑戦だ。従業員の時間外労働に上限規制が適用される2024年問題により、生産性向上は急務。業界特化の請求書電子化に着目した野呂は、自転車で行けるほぼすべての建設会社にアポなし訪問。請求書処理フローと、電子化の阻害点を深ぼった。

「アポを取ると断られるか、会えるまでに1週間はかかる。一方、僕が自転車で行けば、たった10分。学生ならいいかと話は聞いていただける。聞いた課題をプロダクトに仕上げ、導入も依頼。泥くさく思えるが、合理的な手法でもあった」

本当に価値があり、成果につながることを徹底に追求して、結果を出すのが野呂流。今では、大成建設などの大手企業から、全国各地の建設会社まで、200社以上にサービスを提供。社員数も130人を超えるまでに成長した。

なぜ、スタートアップの定石とも思える資金調達を行わなかったのか。

「企業文化は経営にとって最も重要で、組織拡大で必然的に緩むもの。最初から赤字が当たり前だという文化の染み付いた会社にしたくない」「売り上げをあげて、みんなでバイトを辞めよう」と誓って始めた仲間は順にバイトを辞め、フルコミットに。さらに売り上げがあがり急成長。目標通り、初年度から黒字を達成。南との初対面時の野呂に家はなく、会社に住んでいた。23年に、4年ぶりに家を借りた。

野呂が参照するのは「昭和的な経営」だ。ソニー、オービック、第二電電。手に取るのは、日系企業の創業期を知れる本ばかり。「いわゆるスタートアップはひとつの方法で、近年流行しているスタイル。エクセレントカンパニーになった企業が必ずしもそのスタイルだったわけではない。新しいことは多くあれど、正しいことをしっかりやり抜くことだけが重要だ」。

燈では、毎週始めの朝礼、毎日の夕礼を必ず行う。朝礼では、野呂がCEOメッセージを伝え、全員で社内掃除。夕礼では、自社の行動指針である「燈道」を全員で大きな声で読み上げる。志がすべてに始まり、質実剛健、凡事徹底、爆速、圧倒的当事者意識、一致団結──野呂と仲間が大事にしたい、仕事の本質が並ぶ。朝礼は「楽天イズム」を引き継いだ南が、自身で社長を務めた約10年間実践したことを教えてもらい、自社でも採用した。

「リーダーはいちばん大きい重要な局面でしっかり逃げずに、成果を出す。背中を見せて、引っ張っていく。正しいことをやり抜くことが、変わらない本質だと思う」
次ページ > 「願い」の伝播と着火

文=フォーブスジャパン編集部 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事