欧州

2024.03.06 18:00

ウクライナ軍の虎の子兵器HIMARS、ついにロシア軍に撃破される

米陸軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS)。2022年9月、ラトビアのリガで(Karlis Dambrans / Shutterstock.com)

米陸軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS)。2022年9月、ラトビアのリガで(Karlis Dambrans / Shutterstock.com)

ロシア軍は長らく攻めあぐねてきたウクライナ軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS)のうち、1基をついに撃破した
ロシア軍のドローン(無人機)は、ウクライナ東部ドネツク州ニカノリウカ村の樹林帯近くにHIMARSの装輪車両と、随伴する支援車両がとまっているのを見つけた。前線から40kmほど離れた場所だった。

ミサイルがHIMARSの発射車両のそばに着弾し、17tほどのこの車両は炎上する。それによって、発射機に装填されていた227mmのM30またはM31ロケット弾がクックオフ(周囲の熱による爆発)したもようだ。撃ち込まれたのは地上発射型で超音速のイスカンデル弾道ミサイルだった可能性がある。

攻撃でHIMARSの部隊員に死傷者が出たのかは不明だ。HIMARSが白昼、目立つ場所に停車していた理由もわからない。ウクライナ軍でHIMARSを運用する唯一の部隊である第27ロケット砲兵旅団は通常、夜明け頃か夕暮れ時に行動し、射撃任務に就いていない間は車両を移動させ続けたり、地形など利用して隠したりしている。

いずれにせよ、HIMARSの撃破はウクライナ軍にとって手痛い損失だ。一方、この米国製兵器への反撃におおむね失敗してきたロシア軍にとっては、対砲兵戦でのまれに見る勝利になった。遠くまで飛ぶ偵察ドローンと、すばやく目標を狙うイスカンデルの組み合わせによって、ようやく第27旅団に一矢を報いたとみられる。

ロシア側がHIMARS狩りに血眼になった理由は明らかだ。ロシア軍は先月、1週間のうちに3回も、閲兵などのために野外に集合した部隊をHIMARSで攻撃されていた。HIMARSから発射される6発の射程約92kmのM30/31は、それぞれ18万2000個のタングステン調整破片を巨大な散弾銃の弾丸のように撒き散らす。

HIMARSによる3回の攻撃ではロシア軍の将兵百数十人が死亡したとされる。HIMARSはロシア軍の部隊を丸ごと粉砕するだけでなく、野砲や指揮・補給の拠点などを破壊するのにも使われてきた。昨年は短期間、米国から供与された数少ない射程約160kmのM39弾道ミサイルも、ロシア軍の航空基地や防空サイトに向けて発射していた。

ウクライナ軍はHIMARSを1基失ったが、これは致命的な打撃ではない。ウクライナは米国からHIMARSを39基供与されており、さらに英国とドイツ、イタリア、フランスからM270多連装ロケットシステム(MLRS)も計25基受け取っている。MLRSとは簡単に言えば、装填できるロケット弾の数が2倍(12発)に増えた装軌車両版のHIMARSだ。つまり、ウクライナ軍には西側から供与されたHIMARS/MLRSの98%がまだ残っているのだ。

ウクライナ軍のHIMARSにとって、ロシア側の対砲兵射撃による消耗が最大の脅威というわけでもない。そもそも、HIMARSの射撃任務のペースはここ数カ月落ちていたように思われる。理由を推測するのは難しくない。

ウクライナにとってロケット弾の最大の供与国だった米国は、昨年10月以来、ロシアに融和的な共和党議員の妨害でウクライナへの新たな援助を停止している。HIMARSが枯渇するとすれば、まず先に尽きるのはシステム自体ではなく、その弾薬のほうだろう。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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