頭に残せるのは3枚の絵だけ
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北野:自分でビジョンを描き、それを実現させている。根っからの「イリュージョニスト」ですね。
HARA:いっさいリミットがない仕事です。宇宙でもショーができるし、あらゆる業種とコラボレーションができます。世界的に有名な高級車メーカーの依頼は「新型車をイリュージョンと映像で表現して、最後に本物を登場させたい」。クウェートまで行って、クルマを出して帰って来ました。
北野:新しい商品やサービスは、この世になかったもの。半ば「幻」のようなもので共通点がある。
HARA:イリュージョニスト自身、イノベーションを起こし続けないと食べていけません。常に「今できない不可能を、どうやったら可能にできるか」が課題です。新しいことをやろうと思ったとき、僕は誰と組んだらこれが実現できるかを考えます。それでコミュニケーションのスキルが磨かれてきました。常に投資をするので資金の悩みは付きものですが、それは何とかなるものです。
北野:実際にそんなことがあったと。
HARA:23歳のとき日本の社長さんから600万円を借り、ラスベガスでイリュージョニストの修業をしました。でも、返す術が当時はまるでなかった。仕方なく、語学学校の帰りに広場でマジックを披露していたら、最前列にいた白髪の男性がいいリアクションをしてくれたので「運命の人かもしれない」と名刺を渡しました。
すると彼からメールが届きました。「自分の会社の豪華客船で英語と日本語でショーができるイリュージョニストを探していた」と。ラスベガスの有名なエージェンシーの社長だったんです。専属契約をもらい、半年ほどの航海で全額を返せました。誰と会っても「これは運命の出会いなんだ」と思い込んで接すると、相手も同じテンションで返してくれるんですよ。
北野:本当に起業家なのですね。
HARA:知人にも経営者は多いです。商品開発部に呼ばれることもあります。イリュージョンのショーを見せ、その後に裏側を教えます。違う角度からとらえると「自分は思い込みに縛られていた」とわかる。
イリュージョンを学ぶと頭のなかの既成概念から自由になれます。その結果、自分が考えも及ばなかった角度から商品をプロモーションする発想が生まれるかもしれません。グーグルなどの大企業も同じような取り組みをしているそうです。思い込みを外せれば、その先に無限の可能性があります。
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北野:経営者に対してはどんな助言をしますか?
HARA:よくレクチャーするのはプレゼンの仕方です。実は、講演者が部屋に入って来る1歩目で印象が決まっている。でも、多くの人はプレゼンの内容にだけ意識が行き過ぎています。
人間の認識には許容量があります。イリュージョンのショーを見たとき、お客さんがその日に持ち帰れるのは、動画でなく画像です。1時間半だと、せいぜい3枚ぐらいの画像しか脳に残らない。だから「どの絵を深く焼き付けたいか」を絵コンテで描き、逆算してショーの流れを構成しています。
プレゼンも結局は同じで、本当にわずかなことしか伝えられない。それならば、鮮やかな数枚の絵をいかに伝えるか。「プレゼンの開始位置はここにしましょう」「登場の1歩目をこのポーズにしましょう」「最後はこの色の背景を使い、この言葉で去りましょう」と具体的にアドバイスします。