「日本発イチゴ」200億円調達 倒産相次ぐ植物工場で独走状態の理由

オイシイファームの植物工場(提供=オイシイファーム)

米国を拠点にイチゴ栽培などを展開する日本発スタートアップ「Oishii Farm(オイシイファーム)」が好調だ。自社での植物工場を有しており、生産販売する高級イチゴは需要に供給が追いつかないほど人気を博しているという。

植物工場とは、温度や湿度、光などを人工的に管理して農産物を作る施設のことだ。気候に左右されずに栽培ができることが特徴で、ここ数年、米国ではスタートアップ企業が次々と工場の建設を行う。しかし収益化が難しいことから倒産が相次いでいるというのが現状だ。 

そうしたなか、同社は2月28日にシリーズBで200億円の資金調達を発表した。NTTや安川電機、みずほ銀行、そのほか欧米のサステナビリティファンドなどから出資を受けた。CEOの古賀大貴(こが・ひろき)は「植物工場は、日本が勝つべくして勝てる領域」と語る。

糖度14度、高級スーパーでは即完売

オイシイファームは「持続可能な形で農業を変革する」ことを掲げ、2016年に創業した。2017年から販売し始めた「Omakase Berry」は、ミシュラン3ツ星シェフや、マライア・キャリーやミランダ・カーといったセレブが買い求める高級イチゴとして瞬く間に話題となった。
 
2022年には大規模植物工場を建設し、イチゴの量産を開始。価格を1パック50ドルから10ドルまで下げることに成功し、現在は米国の高級スーパーであるホールフーズ(日本でいう成城石井)など約100店舗での販売を行う。他の商品に比べて割高だが、入荷直後に売り切れる状況になっている。

人気の理由はシンプルで、「甘さ」にある。オイシイファームのイチゴの糖度は10〜14度。米国で流通するイチゴの多くは7〜8度で、日本で有名な、とちおとめや紅ほっぺといった品種でも9〜10度程度が通常である。

「気候や土地の影響を受けずに、最適な環境下で栽培できる点が植物工場の最大の強み」と古賀は話す。現在はイチゴ以外にも、トマトやメロンなどの栽培に着手している。

共同創業者のブレンダン・サマービル(左)とCEOの古賀大貴

共同創業者のブレンダン・サマービル(左)とCEOの古賀大貴


 
ではなぜ、イチゴだったのか。この理由が、オイシイファームが好調たる所以でもある。
 
現在、植物工場でイチゴを量産できるのはオイシイファームのみ。イチゴを生産するには、蜂の受粉が必要だ。しかし蜂は自然な環境を好むため、温度や光を人工的に管理する植物工場は生態に合わない。そのため、他社の植物工場では、比較的生産が容易なレタスの栽培に取り組んでいる。

ただ、レタスは味の差を出しにくいうえに、通年出荷されているので単価も安い。このような理由から収益化が非常に難しく、植物工場の倒産が相次いでいる。加えて、米国では市況が悪く「植物工場であれば数百億円の資金調達ができる時期もあったが、最近は投資の勢いも落ちてきている」という。
 
オイシイファームは、詳細は企業秘密としつつも蜂の問題を独自に解決し、高品質なイチゴやトマトを完全人工環境下で生産することに成功。資金も集まっているのだ。
 
「僕たちが目指しているのは、自動車業界でいうテスラのような、農作物におけるグローバルブランドを作ること。ブランドや持続可能なビジネスモデルを確立するうえで、一つ目の作物として高級イチゴは最適でした」
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取材・編集=露原直人 文=小野瀬わかな

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