2024.03.05

伝統的な自動車メーカーがEV販売に苦戦する理由と「安価な中国製EV」の脅威

BYDドルフィンの価格は中国では約210万円から(画像:BYD)

現在もメディアのEV(電気自動車)に対する懐疑的な論調は続いており、最近ではメルセデス・ベンツが「2030年までに販売するすべての車両をEVのみにする」という公約を撤回することになった。2023年10月にはフォードが電動化に120億ドル(約1兆8000億円)を投資する計画の延期を決め、同年12月に電動SUV「F-150ライトニング」の生産を半減すると発表。さらに今年2月の決算説明会ではEV戦略のさらなる縮小を明らかにした。このことを、EVというのは結局のところ、それほど良い案ではなかったことの表れであると見る人もいる。

しかし、これらの伝統的な自動車メーカーは、自ら罠に足を踏み入れているとも考えられる。迫り来る中国のブランドは、同等かそれ以上の品質を、さらに安い価格で提供することを約束し、EVに力を注いでいる。

最大の問題は「価格」

EV市場に注目している人なら誰でも、何が一番の問題なのかということをすでに結論付けている。EVはまだ、同等の内燃エンジンを搭載する車両よりも、はるかに価格が高いのだ。現在の「生活費危機」と呼ばれる状況において、この大きな問題は今まで以上に重みを増している。

従来の自動車メーカーは、ほぼ例外なく、そのターゲットを市場の最上級層、特に高級SUVに置いている。これは電動化に必要な設計、開発、工場の生産設備の変更にともなう費用を、より高価なモデルの大きな利幅で補填したいと考えるからだ。

もう1つの問題は、中古車市場で購入希望者の選べる車両が少ないことだ。もっとも、これは完全に予測できたことであり、現在では解決しつつある。販売される自動車の中で、新車はごく一部にすぎない。英国では2023年の新車販売台数は190万3054台だったが、これに対し、同年に売買された中古車の台数は724万2692台だった。

英国の自動車市場を見ると、新世代のEV(初代日産リーフやルノー・ゾエ、BMW i3の後に登場した車種)の販売は、テスラ・モデル3やジャガー I-Paceが発売された2019年中にようやく活気づいたところだ。販売台数と車種が急激に増加し始めたのは2020年のことで、生産が軌道に乗ったのは2021〜2022年になったからだ。その時期でさえ、コロナ禍と半導体不足に阻まれていた。

現在、多くの人が3年から4年のリースでクルマを購入している(あるいは一般的にそのくらいの期間でクルマを買い替えている)ということを考えると、EVの中古車は数が十分に供給されるようになったというだけであり、価格は同等の内燃エンジンのクルマよりも依然として高い。

例えば、英国では2021年型フォルクスワーゲン・ゴルフが1万〜1万1000ポンド(約190〜210万円)で購入できるのに対し、同年式のフォルクスワーゲン ID.3は1万5000ポンド(約290万円)を超えるだろう。もっとも、EVにありがちなことではあるが、ID.3のほうがゴルフより装備は充実している可能性は高い。EVは中古車の価値が急落しているという説については多くの議論があるが、その一部は明らかに金融と数字の誤解だ。中古でもEVが手頃な価格帯になるまでは、まだ時間がかかる。
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翻訳=日下部博一

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