中国メーカーの脅威
問題は、伝統的な自動車メーカーがより低価格なEVの投入を急がないと、中国の会社が参入してその隙間を埋めてしまうということだ。BYDはその最右翼となるだろう。ウォーレン・バフェットを投資家に持つ同社は、すでにテスラを抜き生産台数で世界最大の「新エネルギー車」メーカーとなっている。BYDのコンパクトハッチバック「ドルフィン」は、英国では2万5490ポンド(約490万円)からだが(日本では363万円から)、中国国内ではわずか240万円ほどだ。2024年モデルは中国では約210万円まで下がった仕様が追加されたが、バッテリー容量は3分の2に減る。BYDの「秦 (Qin) Plus EV」はテスラ・モデル3の競合車であり、中国では109800元(約230万円)からという価格で買える。
かつて英国の自動車ブランドだったMGは、すでに欧州市場へ大いに進出している。同社の「MG4」は欧州で4番目、英国では2番目に売れているEVであり、その販売台数はテスラ・モデルYの60%に達する。MG4の価格はBYDドルフィンと同程度からとなっている。
筆者は昨年、ジーリー(Geely、吉利汽車)のEVブランドであるZEEKR(ジーカー)と、同じく中国メーカーのXPENG(小鵬汽車、シャオペン)のEVを運転したが、非常に信頼性の高いクルマだった。これらのメーカーは、欧州市場に参入し、欧州ブランドと同等の高級な車両を、より安価な価格で提供している。NIO(上海蔚来汽車、ニオ)も待ち構えている。欧州の自動車ブランドでも、このクラスの低価格なEVは、スマート#1やボルボ EX30のように、その多くが中国で製造されている。
これらの企業の中国内における現地価格を見れば、欧州や米国の伝統的な自動車メーカーに価格で差をつける余地は十分にありそうだ。中国製のバッテリーは米国製より11%、欧州製より26%安い。もちろん、中国製EVが米国や欧州に輸入される際には、多額の関税が課せられるので、北米や欧州の市場はいくぶん保護される。
しかし、伝統的な自動車メーカーがEV戦略にもたつき、手頃な価格帯のモデルを投入するにはまだ数年を要するうちに、中国製EVが入り込むチャンスは大いにある。EVの販売が伸び悩んでいる理由は、おそらく、人々がEVを欲していないからではない。価格がまだ高すぎるのだ。伝統的な自動車メーカーがEVの価格を下げない、あるいは下げられないのであれば、中国企業が代わりにより安価なEVを投入し、販売を伸ばし続け、利益を刈り取っていくだろう。
(forbes.com 原文)