月の汚染
月には大気圏がないが、塵とガスの非常に希薄な混合物である外気圏がある。この外気圏は、1年を通して太陽光が当たらない永久影領域にあることが知られる氷とともに、宇宙船や探査機や他の人類の活動から放出される排ガスによって著しく乱される恐れがあると、論文執筆者らは指摘する。「月の人新世のもう1つの特徴は、塵の輸送量が増加することだ。これは、月を周回する塵の雲の形成にまで至る可能性がある」と、ゴーマンは説明する。「これにより、月周回軌道上にある衛星の寿命や、地球からの月面の観測能力などに影響がおよぶことになる」
宇宙遺産
だが、アポロの着陸地点や月面に残る宇宙飛行士の足跡など、すでに歴史的にも人類学的にも計り知れない価値を持つが、すぐに損傷を受けやすくなる恐れのある月面の遺構や遺物を保護する必要もある。現状では、撹乱に対する法的・政策的な保護措置はない。カンザス大のホルコムは「考古学者としては、月面の足跡を、現生人類の在り方において極めて重要な節目となった、人類の出アフリカの延長線上にあるものと見なしている」と述べている。
このような「宇宙遺産」が目指すところは、月面に残された探査車、旗、ゴルフボール、足跡などの物を保存してカタログ化することだろう。
「リーブ・ノー・トレース」
ハイカーや探検家など、人里離れた手つかずの自然環境に足を踏み入れる人々の間で広く使われている常套句「リーブ・ノー・トレース」の考え方は、月には存在しないようだと、研究チームは主張している。論文の執筆者らによれば、アポロ着陸地点には、結局のところ「廃棄され、放置された宇宙船の部品、人の排泄物を入れた袋、科学機器やその他の物(旗、ゴルフボール、写真、宗教書など)」がある。英科学誌BBC Science Focusによると、NASAの宇宙飛行士らが月面に残したのは、ゴルフボール2個、カメラ12台、長靴12足、金メッキの望遠鏡1台、そして糞尿や嘔吐物の入った袋96袋だという。
1971年に月面着陸したアポロ15号のデービッド・スコット船長は、月のハドリー平原地域で月面車の中に1冊の聖書を置いてきた。
(forbes.com 原文)