サイエンス

2023.07.27 10:30

地球の歴史も変えた人類初の核爆発、生み出された鉱物ヒロシマイト

安井克至
1978

米ニューメキシコ州で行われた世界初の核実験「トリニティ実験」のキノコ雲(CORBIS VIA GETTY IMAGES)

1945年7月16日午前5時29分45秒、米ニューメキシコ州の砂漠にあるトリニティ実験場で、人類初の原子爆弾が炸裂した。それは、新作映画『オッペンハイマー』で語られているように、極秘プロジェクト「マンハッタン計画」の下で進められた未曽有の軍拡競争がもたらしたものだった。

爆発の瞬間、10秒足らずのうちにTNT火薬2万トン相当のエネルギーが放出された。前代未聞の規模のエネルギー放出だった。核爆発が行われたのは高さ30メートルの鉄塔の上だったが、爆風によって深さ2メートル以上、半径40メートルのクレーターができた。穴の周辺の地面はこれまで見たこともない物質で覆われていた。

米地質調査所(USGS)の地質学者クラレンス・S・ロスは、当時の報告書にこう記している。「ガラスはおおむね厚さ1~2センチの層を形成し、上面には固まる前に降り注いだ塵がうっすらと付着していた。底面は部分的に融解した物質が厚い膜をつくり、元々の土壌に溶け込んでいる。ガラスは淡い暗緑色で、非常にたくさんの気泡があった。気泡の大きさは、最も大きいものだとガラスの厚さとほぼ同じだった」

実験に使われたのはプルトニウムとウランを充填した核分裂爆弾であったため、爆発によってさまざまな放射性同位体や放射性元素が放出された。砂漠の砂は主に石英や長石の粒からなり、方解石、普通角閃石、普通輝石の小さな結晶が混じっている。最初の強烈な放射線バーストの熱エネルギーは8400ケルビン度(摂氏約8100度)を超え、砂漠の表層の多くを蒸発させた。蒸発した鉱物の元素と核反応により生成された元素が混ざり合い、新しい独特な化学混合物が生まれ、液化した状態で大地に降り注ぐと急速に冷却されて、爆心地の周囲半径300メートルを覆うガラス質の層を形成した。こうして誕生した新しい鉱物は、形成・発見地点にちなんで「トリニタイト」と命名された。

トリニティ実験の成功は、世界を「核の時代」に導いたのみならず、日本の広島と長崎に2発の原子爆弾を落として太平洋戦争の早期終結をもたらしたとされる。

1945年8月6日朝、原爆「リトルボーイ」は広島市の上空で炸裂。当時、市内には約35万人がいた。猛烈な爆風は一瞬にして街の大部分を破壊し、約14万人の命を奪った(同年12月末までに)。

翌日の米紙ニューヨーク・タイムズは「人間が人間を破壊するために原爆を使用し、人類史の新たな章が幕を開けた」と報じた。広島への原爆投下は、人類の歴史を変えただけでなく、トリニティ実験と同様に地質学史に残るかもしれない新種の鉱物を生み出した。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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