チェルノブイリの放射能でカエルが黒くなる

イースタンツリーフロッグの皮膚色の対比。チェルノブイリの高汚染区域内で捕獲した個体(左)、汚染区域外で捕獲した個体(右)(クレジット:Germán Orizaola/Pablo Burraco, CC BY)

進化の過程を目の前で見ることはそう多くないが、もしチェルノブイリ排他区を訪れる機会(休暇の計画としては最も異例)があれば、通常は緑色のカエルが黒くなっていることに気づくだろう。その黒さはまるで炭のようだ。いったい何が起きたのか?

進化だ。

1986年4月、チェルノブイリは史上最大量の放射線を近隣に放出した大規模原子力発電所事故の現場だった。この事故によって、膨大な量の放射性セシウム137 が、ウクライナの大部分およびノルウェーと英国の一部に蓄積した。住民は避難し、その区域は野生動物保護区に指定された。欧州最大の保護区だ。

地図
図1 研究対象のイースタン・ツリー・フロッグ(学名:Hyla orientalis)のいた場所。重ね合わせたセシウム137土壌データ(崩壊量は2017~2019年春へ修正)はウクライナの放射能汚染地図帳(Intelligence Systems GEO, 2011)による(出典:doi:10.1111/eva.13476)

地元の野生生物はその場に残り、36年後の今、この動物たちは、高レベル放射能の中での生活に適応できるのか、どう適応するのかに関する特別な機会を世界中の科学者たちに提供している。

放射性同位元素が衝突したDNAが損傷を受け、この損傷が遺伝子的変異を引き起こすことはよく知られている。この変異はガン、子どもの形態異常、死亡などにつながり、変異は子孫へも受け継がれることがある。

ただし遺伝子変異がすべて有害なわけではない。しかしこうした何らかの変異が、地元に住むイースタンツリーフロッグ(学名:Hyla orientalis、アマガエルの仲間)の皮膚色を明るい緑から黒へと変えたことがわかった(図2)。

「チェルノブイリ排他区の中に住んでいるツリー・フロッグは、区域外のカエルと比べて背部の皮膚が明らかに黒い」とパブロ・ブラコとヘルマン・オリザオラが最近の研究論文に書いた(参照)。

色の対比
図2:(a)チェルノブイリ排他区の内側(CEZ)から外側(Outside CEZ)にかけて生息するイースタン・ツリー・フロッグ(学名:Hyla orientalis)オスの背面皮膚の輝度。(b)イースタン・ツリー・フロッグ・オスの背面皮膚の輝度の範囲(左から右に:輝度値、5、20、30、40、および60)(出典:doi:10.1111/eva.13476)

しかしなぜこのカエルたちの皮膚は黒くなったのか?

皮膚の黒い色はメラニンと呼ばれる色素によって作られる。皮膚や毛髪に含まれるメラニンが、人間を含む多くの動物の色を黒くする。メラニンは太陽光の紫外線放射の悪影響を減らすために重要であり、太陽に多く当たった人の肌が日焼けするのはこのためだ。さらにメラニンは、核事故によって放出されたイオン化放射線のDNAに対する悪影響を抑制する効果も持っている。放射線が損傷を与えるエネルギーの少なくとも一部を吸収あるいは散乱させるためだ。
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翻訳=高橋信夫

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