働き方

2023.12.28 11:00

資本主義から半身になる「人新世の幸福論」とは何か

(写真左)四角大輔 作家・森の生活者(同右)斎藤幸平 経済思想家

(写真左)四角大輔 作家・森の生活者(同右)斎藤幸平 経済思想家

Forbes JAPAN2月号は、「『地球の希望』総予測」特集。戦争、気候変動、インフレなど、世界を揺るがすさまざまな事象が起きる「危機と混迷の時代」。2024年の世界と日本の経済はどうなるのか? 世界で活躍する96賢人に「今話したいキーワード」と未来の希望について聞いた。


50万部という異例のベストセラー『人新世の「資本論」』の著者で、東京大学大学院総合文化研究科准教授である斎藤幸平。元音楽界のヒットメーカーで、ベストセラー中の『超ミニマル・ライフ』の著書、ニュージーランドで森の生活を営む四角大輔。マルクス研究者とミニマリスト先駆者が対談のテーマとして掲げたのが「脱成長における幸福」だ。経済の長期停滞、気候変動、パンデミック、戦争と次々に襲いくるポリクライシス(複合危機)の中で実践できる幸福論とは。
 
四角大輔(以下、四角):「組織、場所、時間、労働、人間関係、カネ」から自由になるライフスキルの戦略書『超ミニマル・ライフ』の帯に(斎藤)幸平さんが寄せてくれた「人新世の幸福論の決定版」という推薦文がとても嬉しくて。なぜなら、僕が音楽業界の地位を捨てて、ニュージーランド(以下NZ)で14年営む、モノや貨幣への依存と環境負荷を最小化する自給自足ライフは、幸平さんが掲げる「脱成長」の生活実験であり、現代において最も合理的な幸福戦略だからです。
 
斎藤幸平(以下、斎藤):NZの湖畔で(四角)大輔さんは、畑を耕したり、魚を釣って捌いたり、DIYしたり、と自ら手を動かす姿は本当に楽しそうで、真のウェルビーイング(心身の健康や幸福)の実践者に見えます。マルクスは、「朝は狩りをし、午後には釣りをし、夕方には牧畜を営み、そして食後には批判をすることが出来る」のが理想だと言ってますが、まさにそれ(笑)。頭でっかちで考えた幸せではなく、心と身体性がつながっているのが素晴らしい。

私たちは資本主義下で自由を享受する存在だと思いがちですが、現在得ているのは言うならば「お金を払ってメニューに掲載されたものから選ぶ自由」。私たちは自ら何かを作り、管理する能力を失い、モノや貨幣に振り回されているとも言えます。大輔さんのように湖で釣った美味しい鱒や自家栽培の採れたての野菜はメニューに掲載されていないから得られません。

四角:日本人が手にしていると思い込んでいる自由とは幻想で、真の自由や自立ではないですから。

斎藤:もちろん資本主義が社会システムとしてうまくいっていればいいが、そうなってはいない。「カネやモノ」依存だけでは、この先難しいのは明らかです。日本経済をみても、アベノミクスのツケにより、金利も上げられなくて、円安も進んでいる。経済成長しようとしても、人手をコスト削減の対象にして、人材育成してこなかったせいで、イノベーションも停滞している。エネルギーや食料も外国に依存しているので、インフレもどんどん加速している。

人口減少と東京一極集中で、地方は過疎。とはいえ、東京の暮らしも家賃や教育費で大変です。もう、すべてが崩れていて。それに加えて、戦争や気候変動などのポリクライシスな状況でお金に依存するだけなら、私たちは生きていけない、本当に。豊かさを志向するならば「脱成長」を本気で模索する必要があるというのが私の考えです。
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文=國府田 淳 写真=吉澤健太

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