幸平さんは、マルクスの時代より今の日本の労働者の状況の方がひどいかもしれないと危惧していますが、僕もは実際に数名の先輩を過労死で亡くしてます。日本人の労働時間が先進国最長という調査結果もありますが、NZに暮らして世界65カ国を視察してきた実感から、明らかに働きすぎです。
斎藤:長年海外で暮らしていると、なぜ日本は24時間 年中無休で物が買えるんだろうか、なぜネットで買った物が何でも次の日に届くんだろうか、と不思議に思えます。ドイツのような資本主義の国であっても、このような状態は一般的ではない。日曜日はほとんどのお店が閉まっているので、みんなでカフェで議論をしたり、ボランティアや政治活動をしている。日本人のように長時間働いたり、休日はショッピングというようなライフスタイルではありません。
このような状況の中、自分たちの身を守るためには、資本主義について批判的な目で見ることが必要です。資本主義しか知らなければ、とにかくどんなに大変でも、働いて残業して給料を増やすという発想にしかならない。それが幸せで満足している人は、それでもいいと思います。でも、私には幸せじゃなさそうな人がたくさんいるように見える。だからそういった人たちに、例えば私の『ゼロからの「資本論」』などを読んでもらえれば、他の選択肢を選ぶこともできるのではないかと。
四角:『ゼロからの「資本論」』には、現代人が幸せになるためのヒントが多くありますね。時刻表通りの電車や過剰なサービスを支えているのは、自分たちの過重労働だと気付くべきです。便利すぎる社会を追求すればするほど、自分の首を絞めることになります。
僕は、自著で自己防衛のために「モノ、消費、労働」を減らす、脱成長的ミニマルライフを推奨していますが、それは単なる清貧の思想ではなく「時間、労力、カネ」を大切なことに投資して、真に豊かに生きるための人生戦略。戦後の貧困期ではないのだから、日本ではもはや「幸せは、増やす先ではなく減らす先にしかない」。僕が30年続けている登山でも、10日以上かかる難ルートを踏破する時は、最小限の装備だけで、競争せず自分のペースで歩き続ける「ロングスロー・ディスタンス」が最も楽で、成功率が高い。これこそが人生100年時代、脱成長時代に必要なライフスキルだと考えています。
斎藤:生活をミニマル化するにあたって、掃除をロボットに任せる、料理をウーバーイーツやコンビニに頼るという方向性に未来はない、ということには気を留めておく必要があります。例えば洗濯板を使って手洗いしていた時代に比べて、圧倒的に便利になっているはずなのに、女性は家事から解放されていない。洗濯機があることで服が増えて、洗濯の回数も増えるという悪循環が生まれている。自動化して余計な家事から自由になろうというのが、資本主義の自由だけれど、お金がかかって、時間は増えてない。だとすれば、そもそもの家事のあり方を変えるべきで。かつての社会主義実験では家事の共同化が目指されましたが、現代におけるもう一つの道は、モノそのものを減らすことでしょう。