去年、杉並区でもともとは一般市民だった岸本聡子さんが区長になったんです。市民の中から出てきた人が区長になるというのは、区政に対するハードルが下がったという点で、非常に大きな変化です。さらに2023年5月の統一地方選では、岸本さんを応援してた人たちが選挙に出て、3〜4人が当選した。その結果、杉並区は自民党が第一党ではなくなって、女性議員の数が過半数を超えました。
このように自分たちが実際に選挙に参加し、「選挙って楽しいじゃん、自分でできるじゃん」となったというのは、まさに感性や価値観が変わったということです。さらに岸本さんや世田谷区長の保坂展人さんなどと一緒に、ローカル・イニシアチブ・ネットワーク(LIN-Net)という、地方自治体の議員たちが超党派で価値観や戦略をシェアしていく活動を今年から始めています。こういった変化が今、日本でも起き始めています。
四角:政治とは暮らしの延長線上にあるものですからね。民意が反映されない政治は、個々の人生を狂わすこともある。世界中を視察し、異国に長年暮らす僕の目には、政治が機能不全を起こし、ポリクライシス下の日本にも、希望的な現象が見てとれます。
例えば、次世代の多くが本能的に拡大成長主義に違和感を感じ、行き過ぎた資本主義に半身です。そして、市民や組織の、環境や人権に対する意識は、この10年で格段と向上していて、幸平さんが言及する「3.5%の人が動けば社会は一気に変わる」という状況は目前だと感じます。日本人は同調圧力に弱いため、潮目が変わった途端に社会は雪崩のようにシフトするでしょう。マスメディアで発信する思想家の幸平さんと、ゲリラ活動する実践家の僕が連携しながら「脱成長の先にある幸福」を提唱し続けたいですね。
四角大輔◎元音楽界のヒットメーカー。NZで森の生活を送るベストセラー作家。Greenpeace Japan&環境省アンバサダー。脱成長的な人生をデザインする学校「LifestyleDesign.Camp」主宰。著書に「超ミニマル・ライフ」「超ミニマル主義」(ダイヤモンド社)他。
斎藤幸平◎東京大学大学院 総合文化研究科准教授。邦訳『大洪水の前に』(角川ソフィア文庫)でマルクス研究界最高峰の「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞。 著書に『マルクス解体 プロメテウスの夢とその先』(講談社)他。