ダーク・ツーリズムからグルメまで、年末年始に読みたい話題の小説5選

5.『シェフ』ゴーティエ・バティステッラ

『シェフ』ゴーティエ・バティステッラ

『シェフ』ゴーティエ・バティステッラ

格付けやお墨付きの文化の最たるものとして、世界のグルメが信奉してやまない「ミシュラン」がある。レストランを星の数(3つが最高点)で採点するこのガイドブックについて、ウィキペディア以上に詳しい記述が披露されるのが、ゴーティエ・バティステッラの『シェフ』(田中裕子訳/東京創元社)である。それもそのはずで、作者は「ミシュラン」の編集部に15年間勤務していていたという。(ただし「ミシュラン」は、作中では「ル・ギッド」と置き換えられている)
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フランス南東部にあるアルプスの町アヌシーで、シェフのポール・ルノワールが営む「レ・プロメス」は3つ星レストランとして名だたる評判があった。そのシェフ兼オーナーとレストランを取材しようと、アメリカからNetflixのロケ隊がやってくる。しかしその朝、彼は猟銃で自殺を遂げてしまう。誰の目にも成功者に映った男は、なぜ自ら死を選択したのか?

主人公の自殺というゼロ時間を基点に、奇数章ではそこへと至る彼の人生の歩みがポールの独白で語られ、偶数章ではその後の事件の波紋が複数の関係者たちの視点から描かれていく。天才と謳われたシェフの過去と現在が詳らかにされていき、そこに潜む人生の謎が解き明かされていく面白さとスリルがある。

ハラスメント、ドラッグ、過酷な労働条件など、ブラックそのもののオート・ガストロノミー(最高級料理)業界の裏を暴いた告発の書でもあるが、主人公の1人称のパートからは、彼の出自や幼い日のこと、そして料理人として歩んだ険しい道のりが語られ、同時に4世代にわたる家族の歴史が年代記風に浮かび上がる。
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一方、残された家族やレストランのスタッフなど、めまぐるしく視点が切り替わる展開にはそれぞれの思惑や確執が飛び交う群像劇の面白さがにじむ。さまざまな楽しみ方ができるグルメ小説である。

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