ダーク・ツーリズムからグルメまで、年末年始に読みたい話題の小説5選

稲垣 伸寿
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4.『地雷グリコ』青崎有吾

『地雷グリコ』青崎有吾

『地雷グリコ』青崎有吾

青崎有吾『地雷グリコ』は、5つの短編からなるオムニバス長編だが、やけに郷愁をそそられる、おなじみの「ごっこ」で幕があく。この通称「グリコ遊び」は、階段でじゃんけんを使った子どもたちの牧歌的な遊びで、発祥は戦前にまで遡ると言われる。それを、ハイパーな頭脳戦としてリニューアルしてみせるのが表題作だ。

ヒロインの射守矢真兎(いもりや・まと)は、一見ちゃらんぽらんだが実は頭脳明晰な頬白高校の1年生。いつも彼女とつるんでいるのは、地味めだが友達思いの親友の鉱田である。

文化祭の場所取り合戦で、生徒会が誇るキレ者の椚先輩との対決を皮切りとして、目次には「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」といったタイトルが並ぶ。さて、どんなゲームだろう?との興味が、それだけでつのっていく。

学園を舞台にしたコミックを原作に、テレビアニメや浜辺美波主演で映画にもなった『賭ケグルイ』を思い出させるところもある。しかし、徹頭徹尾ギャンブルにこだわっていたあちらに対し、こちらはあくまでミステリ仕様で、理詰めの逆転劇を次々痛快に決めてみせる。

さらに、途中からは中学時代に遡っての因縁話となっていく。学園ドラマとしても盛り上がっていくのは、第三の女子・雨季田絵空が物語に加わってからだ。唯一の書きおろしであるしめくくりの最終話は、女子たちの連帯を描くシスターフッドの物語として昇華される点でポイントも高い。
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