ダーク・ツーリズムからグルメまで、年末年始に読みたい話題の小説5選

この冬も、まもなく年末年始の大連休がやってくる。ほとんどの企業が例年通りに12月28日から1月3日までを休業とするようだが、今年はサラリーマンなら使って損のない裏技がある。1月4日と5日を有給休暇にあてれば、なんと豪華11連休が満喫できるのである。

そんな大型連休の過ごし方で一番人気は、なんといっても海外旅行だろうが、これからの手配は難しいし、そもそもお金がないとお悩みの方々にお奨めしたいのが読書である。才女として知られた18世紀の著述家モンタギュー夫人も、こう言っている。「読書ほど安い娯楽も、長続きする喜びもない」と。

そんなあなたのために、年末年始だからこそじっくり楽しんでいただける、選りすぐりの5作品をピックアップしてみよう。

1. 『夜間旅行者』ユン・ゴウン

『夜間旅行者』ユン・ゴウン

『夜間旅行者』ユン・ゴウン

ここのところの韓国文学の台頭には、目を瞠るものがあるが、ことミステリの分野に限っても、チョン・ユジョン『種の起源』、ク・ビョンモ『破果』などの超弩級の作品紹介が、ファンを色めき立たせている。

そこに新たに加わったのが、ユン・ゴウンの『夜間旅行者』(カン・バンファ訳/ハヤカワミステリ刊)だ。

災害の被災地ばかりをパッケージしたツアーを企画する旅行会社のベテラン社員ヨナは、上司から受けたセクハラの埋め合わせで手に入れた長期休暇で、ツアーの査定という仕事も兼ねて、ベトナム沖に浮かぶ小国ムイに降り立った。ところが帰国直前にパスポートを紛失し身動きが取れなくなくなり、次々不可解な出来事に遭遇する。

テーマは、いま話題のダーク・ツーリズムだ。津波や地震の廃墟や、戦争の焼け跡を訪ねることを目的とした観光ツアーのことで、本来は鎮魂と悲惨な経験の記憶を後世に伝えることが目的と言われるが、被災者たちを見世物にした悪辣なビジネスだとの批判もある。

本作は、異国の文化すらも喰い物にする資本主義の貪欲さと、それを受け入れざるをえない地元社会の負のスパイラルを描き、国家規模の陰謀を暴いていく謀略ミステリだが、あくまでヨナという等身大のヒロインを通して語られるところが新鮮だ。

彼女を待ち受ける運命に一喜一憂しながら、読者もまた深い闇の中を彼女と夜の旅に出るのだ。ちなみに作者は、本作で英国推理作家協会(CWA)賞に初のアジア系受賞者の栄誉に輝いている。
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