ロシアがウクライナで拡大して22カ月目になる戦争の趨勢を、一気に根本的に変えるような大きな突破を成し遂げるのに必要な余剰戦闘力は、両軍とも持ち合わせていないように見える。
最終的には、軍全体の崩壊を引き起こせるほど敵の戦力を消耗させた側が勝者になるかもしれない。エストニア国防省は、ウクライナが2025年にロシアの敗北を確実にするためには、2024年にロシア軍の人員10万人を死亡させるか重傷を負わせる必要があると分析している。
これは相当な数だ。ただ、それを言うなら、ウクライナ側はすでにロシア側に相当な数の人的損失を与えている。最も正確な見積もりによれば、ロシア軍のこれまでの死傷者は31万5000人とされる。年間では17万2000人になる計算だ。
「支障がなければ、ロシアには6カ月ごとに13万人を訓練し、部隊にまとめ上げ、新たな作戦に投入する能力がある」とエストニア国防省は推定している。
十分に訓練された新兵を年に26万人生み出していけば、ロシアはウクライナに展開している42万人規模の兵力を維持できる。「(ロシアは)それ以上の人員を動員し、十分な訓練をしないままウクライナに補充として送り込むこともできるだろうが、これらの兵力は有効な戦闘力にはならない」とエストニア国防省はみている。
ウクライナは、ロシア側が新兵の基礎訓練のペースを引き上げざるを得なくなるほど多くの人的損失を、ロシア軍に与えていくことを目指さなくてはならない。訓練が少ないほど、新しい志願兵や徴集兵は戦場で役に立たなくなり、損耗する可能性も高くなるからだ。
それがまざまざと示されているのがアウジーイウカ周辺での戦いだ。ウクライナの守備隊はこれまでに、攻撃してきたロシア軍部隊に推定で1万3000人にのぼる死傷者を出させている。その多くはわずか2カ月ほどの最低限の訓練しか受けていなかった。
準備不足の補充人員はまともに戦えず、早期に死にやすい。そのため、新兵の訓練をさらに急ぐ必要が出てくる。すると損耗はますます増え、ペースも速くなる。エストニア国防省によれば、2024年にロシア軍に少なくとも10万人の死者・重傷者を出させれば、十分に訓練を受けた新兵の数を8万人に落ち込ませることができる。そうなれば、ロシア軍全体の消耗は避けられない。
死傷者の増加と拙速な訓練というこのループこそ、ウクライナの勝利への最も直接的な道筋かもしれない。エストニア国防省は「(ウクライナへの)われわれの軍事支援を強化することで、ロシアの人的資源、さらに軍装備の消耗ペースは持続不可能なレベルに加速するはずだ」とも述べている。