欧州

2023.12.18 13:00

ウクライナ軍は損傷した戦車を直して再投入、修理できれば戦力は維持できる

戦線に向かう準備をするロシア軍から鹵獲したウクライナ軍第92独立旅団所属のT-72。ウクライナ・ハリコフ州、2023年5月10日(lev radin / Shutterstock.com)

ロシアが2022年2月にウクライナに侵攻した際、ウクライナ軍は約860両の戦車を運用していたが、そのうち少なくとも440両を同年末までに失った。これは、ソーシャルメディア上に出回った写真や映像を精査した独立系のアナリストらによる非公式な集計だ。

アナリストらは損傷したり破壊されたりした戦車を数十両、あるいは数百両見逃しているかもしれない。また、ウクライナ軍が最終的に修理できた戦車を破壊されたものとして数えている可能性もある。その数はかなりのものになるかもしれない。

「昨年夏、戦場で破壊されたものの後に回収されたウクライナ軍の戦車は、ポーランドで月に20~30両のペースで修理されていた」とアナリストのニック・レイノルズは英王立防衛安全保障研究所(RUSI)を通じて発表した新たな研究に書いている。

このペースが昨年12月までの10カ月間ずっと続いていたとすれば、ウクライナ軍は300両近い戦車を修理したことになる。ロシア軍に鹵獲(ろかく)されずに「失った」戦車のほぼすべてにあたる。

これは驚きではない。ウクライナ軍は多くの戦車が損傷したにもかかわらず、ドイツ製のレオパルト2戦車71両の大半を、修理のためにポーランドやドイツに送ることでなんとか使い続けている。

最良の環境下にあれば、戦車がいかに再生可能なものであるかは、第二次世界大戦における旧ソ連の経験から明らかだ。「戦車は作戦中に損傷と修理、再投入を4回繰り返した可能性がある」とレイノルズは書いた。

「修理部隊が損傷した戦車のすべてまたは大部分に対応できていた間、戦車部隊は戦力を維持することができた。再生不可能な場合と修理されているときのみ徐々に弱体化した」ともレイノルズは指摘した。

ウクライナ軍は昨年後半と今年夏の反攻作戦で最も多くの犠牲を払ったが、損傷した戦車の修理はこれらの装甲車を用いた作戦で前進するのに役立った。つまり、戦車は、敵の激しい砲火にさらされることなくエンジニアらが駆けつけられる前線のやや後方で損傷することが多かった。

結局のところ、戦車を修理するにはまず戦場から回収する必要がある。これは修理部隊が敵に狙われていないときでも困難な任務だ。

一方のロシア軍の状況は異なる。昨年春にウクライナ中北部から、同年秋にはウクライナ北東部と南部から撤退しながら、急増する戦車の損失に苦しんだ。

ロシア軍の後退にともなって前線が急に動いたため、損傷して放棄されたロシア軍の戦車はすべてウクライナ軍の手に落ちた。ウクライナ軍が昨年、少なくとも530両のロシア軍の戦車を鹵獲したのにはそうした背景がある。鹵獲したこれらの戦車も、修理のために陸路と鉄道で6時間かけてポーランドに送られたのだろう。

十分な修理支援があり、修理工場も利用できるウクライナ軍は戦車を再生させることができる。同盟国に追加支援を求めるウクライナの要望リストで、戦車が真っ先に挙げられないのはこのためかもしれない。ドローン(無人機)や防空ミサイル、砲弾、地雷除去装置、無線妨害装置の方がはるかに優先順位が高い。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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