宇宙

2023.12.25

地球の希望になるか?「宇宙経済圏」で日本が勝つ方法

(写真左から)上地 練 (Solafune)新谷美保子(Space Port Japan)袴田武史(ispace)

現代のビジネスにおいて最も注目されているキーワードである「気候変動」「地政学」「テクノロジー」。これら重点領域の交差点にあるのが「宇宙開発」だ。宇宙ビジネスの第一線で活躍する3人が「日本の未来」を語った。

Forbes JAPAN2月号は、「『地球の希望』総予測」特集。戦争、気候変動、インフレなど、世界を揺るがすさまざまな事象が起きる「危機と混迷の時代」。2024年の世界と日本の経済はどうなるのか? 世界で活躍する96賢人に「今話したいキーワード」と未来の希望について聞いた。

ispaceのCEO袴田武史、衛星データ解析技術の開発・提供を行うSolafuneのCEO上地練、そしてSpace Port Japan設立理事で、国内における宇宙法の第一人者である弁護士の新谷美保子による特別座談会。日本の宇宙産業を牽引する3人は、新しく生まれつつある宇宙経済圏を、いまどのように俯瞰しているのか?

──今回の特集では、気候変動と地政学、テクノロジーという、日本のビジネスのランドスケープを変えつつある重点領域に焦点を当てています。その3つの領域が最先端で交差する領域の一つが「宇宙」です。まずは皆さまの取り組みと、ビジョンについて教えてください。袴田さんは「経済圏を月まで広げたい」とのことですが、その背景にある考えとは?

袴田武史(以下、袴田):ispaceでは宇宙、特に月を中心とした、地球と月の間の「シスルナ」と呼ばれる経済圏を作っていくことを標榜しています。宇宙が、これから地球の問題解決にとって非常に重要な場になっていくからです。SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるような、1カ国では解決できないグローバルな問題の多くは地球規模で解決するが必要があります。すると、宇宙のアセットも活用しなければいけない時代が来る。ところが、宇宙はまだ経済合理性のあるかたちで利用できていません。その経済的合理性を牽引するのが、輸送費や打ち上げ費といった「輸送コスト」です。今後、宇宙での活動が増えるにつれ、輸送すべき物量も増えます。ただヒトや燃料、食料を地球から運ぶ場合、いずれも同じコストがかかる。そこで、宇宙や月面で得られる資源を活用することが経済的合理性を担保するためには必要だと考えています。
袴田武史◎ispace代表取締役CEO。名古屋大学工学部機械・航空工学科に入学。米ジョージア工科大学大学院へ進学し、航空宇宙工学修士取得。帰国後はコンサルティング企業に入社。2010年ホワイトレーベルスペース・ジャパンを設立。同年よりGoogle Lunar XPRIZEにチーム「HAKUTO」を率いて参加。13年にispaceを創業した。表紙には、「Forbes JAPAN 2017年2月号」以来、7年ぶり2度目の登場。

袴田武史◎ispace代表取締役CEO。名古屋大学工学部機械・航空工学科に入学。米ジョージア工科大学大学院へ進学し、航空宇宙工学修士取得。帰国後はコンサルティング企業に入社。2010年ホワイトレーベルスペース・ジャパンを設立。同年よりGoogle Lunar XPRIZEにチーム「HAKUTO」を率いて参加。13年にispaceを創業した。表紙には、「Forbes JAPAN 2017年2月号」以来、7年ぶり2度目の登場。


──2023年11月には、月面のレゴリス(月や小惑星上の堆積層や岩盤の細粒物)を掘削する月面探査用のマイクロローバーを発表しました。これは月面資源を活用するための下地作りでしょうか。


袴田:宇宙資源の売買に関する法整備が進みつつありますが、そのデモンストレーションの一環として発表しました。有望な宇宙資源の一つが、月にある「水の氷」です。掘削した氷を溶かせば水が得られ、さらに電気分解すれば水素と酸素が生成できる。水と酸素はヒトが活用できるし、水素と酸素はロケットの推進剤にもなる。月資源を使って月面にガスステーションを建設できれば、宇宙での輸送費が大幅に低減でき、宇宙における経済合理性を飛躍的に高めることができるでしょう。

──23年4月には、ispaceの「ミッション1ランダー」の月面着陸に挑戦しました。今回は実現しませんでしたが、24年に再挑戦される予定ですね?

袴田:はい、同型機の「RESILIENCE」で、もう一度挑戦します。
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文=鈴木喜生 写真=ヤン・ブース スタイリング=石関淑史 ヘアメイク=桜井 浩(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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