上地 練(以下、上地):私は米カリフォルニア大学バークレー校で数学を専攻し、「世の中で起こる事象をすべて数式にする」ことを目指していました。その延長線上にあるのがSolafuneでの活動です。物理現象を解明するにはセンサーが必要で、地球を見るセンサーといえば「人工衛星」です。地球で起こるあらゆる事象を数式化するには、人工衛星のデータを解析する技術を向上させればよい。それが僕らの始まりです。
──ウェブ上のプラットフォーム「Solafune」では、衛星データを活用したコンテストを定期的に開催しています。例えば、地球観測衛星「Sentinel-2」のデータを解析することで、地表にあるソーラーパネルの分布を探るといったものです。こうしたテーマは上地さんが考えているのですか?
上地:さまざまなケースがあります。私たちが技術的に必要だと思うテーマを出すこともあれば、企業や国などのお客さまからオーダーされることも。私たち1社だけでこの世の全ての事象のデータ解析に取り組むと何百年もかかるかもしれません。そこで、エクスポネンシャル(指数関数的)に増やすべく、世界中のエンジニアや研究者のリソースを一気に集められる仕組みを作ってしまい、それを集積しようと。そのための場がSolafuneです。私たちは「Hack The Planet .」を標榜していますが、それは私たちが地球に限らず、あらゆる天体を解析することを意味しています。
地球観測衛星データの活用は気候変動の領域とも関係してきますが、私たちはそうした大きな問題の解決を目指すより、もう少しミクロなアプローチを採っています。私たちのお客さまには東南アジアやアフリカの政府が多いのですが、同地域では水質が悪いために蚊が大量に発生し、マラリアやデング熱の原因になっています。またアフリカでは、鉱物資源の違法採掘に困っています。そうした状況を衛星のデータを解析することによって把握できるのです。
──新谷さんは宇宙ビジネス法務の第一人者であると同時に、日本に複数の宇宙港を開港し宇宙輸送におけるアジアのハブとなることを目指す「一般社団法人Space Port Japan」の設立理事でもいらっしゃいます。日本の宇宙産業の現状をどのように見ていますか?
新谷美保子(以下、新谷):宇宙産業と聞けば、ロケットや衛星の打上げが印象的で、自分には縁遠い話と考えてしまう読者諸賢も多くいらっしゃると思います。でも、そんなことはありません。宇宙空間を利用したインフラによって構築されるサービスは、いずれも地球上の私たちに還元されるからです。例えばイーロン・マスクが創業した通信衛星コンステレーション企業「スターリンク」の運用はすでに始まっており、昨年はウクライナでもサービスが開放されたことがニュースになりました。また、地球上の二地点間を移動するために、一時的に宇宙空間を通行して、世界の主要都市間を1時間以内で結ぶ計画も実現可能だとされています。そして何よりも宇宙から取れる情報が重要です。
衛星からは様々な情報が得られますが、1.地球観測衛星から撮影できる画像は第一次産業やエネルギー分野にも資する重要な画像が手に入りますし、2.測位衛星から得られる衛星測位情報は自動運転に利用され、また地上の情報と組み合わせた地理空間情報として様々な活用が考えられています。私たちの生活すべてに影響を与えるテクノロジーの波がすでに迫っていて、宇宙空間を利用したインフラ整備をどの国が押えるかによって世界情勢さえ変わろうとしています。