今回の挑戦に至るまでには、長く険しい道のりを歩んできた。ispaceの前身は、合同会社「ホワイトレーベルスペース・ジャパン」。オランダの「ホワイトレーベルスペース」の日本支社として2010年に設立され、日欧チームで、月面探査レース「Google Lunar XPRIZE(グーグル・ルナ・エックスプライズ)」の優勝を目指していた。日本はローバー(月面探査車)を、欧州はランダー(月着陸船)を製作するという役割分担をしていた。
しかし2013年、欧州のチームがレースから脱退することになり、ホワイトレーベルスペース・ジャパンは組織変更で「ispace」を設立。「HAKUTO」というチーム名でGoogle Lunar XPRIZEに独自参加を続けた。ただ、その後も別の協業チームの離脱が起きるなど苦戦を強いられ、ispaceもレース中止に追い込まれた。
そうしたなかでも2017年には大型の資金調達に成功し、今年4月には東証グロース市場へ上場した。ispace代表締役CEO&Founderの袴田武史(はかまだ・たけし)に、
1. 創業まで(〜2010年9月)
2. 創業から5年目まで(2010年9月〜2015年8月)
3. 6年目からIPOまで(2015年9月〜2023年4月)
各期間のターニングポイントを聞いた。
ターニングポイント1 結婚式で月面探査レースを知る
幼い頃から宇宙への憧れを抱いてきた袴田は、日本とアメリカの大学で航空宇宙工学を学んだ。卒業後は、外資系のコンサル企業に就職したが、そこでの勤務が後のスタートアップ経営にも影響を与えたという。「『コンサルで経営の勉強をしたんですか?』とよく聞かれますが、それよりはスタートアップを経営するためのガッツを得たと思います。コンサルは小さな会社で、僕が8人目くらいの社員でした。顧客のコスト削減が仕事で、削減額の何パーセントかが自分の給料になるという環境だったんです」