ロシアの侵攻を受けるウクライナでは、双方が相手側のドローン使用を阻もうとするなか、いたるところで電波のジャミング(妨害)が行われている。これまで、対ドローンの電子戦のやり方は主に2つあった。電波ノイズを発生させてドローンの制御信号を妨害し、操縦を不可能にするという方法と、GPSをはじめとする衛星測位システム(GNSS)の周波数に干渉し、ドローンの衛星ナビゲーションを使えなくするという方法だ。
そして、第3の方法として、GNSS信号のスプーフィングによるドローンの誤誘導も行われているとみられることが、ロシア側の報告からわかった。
ロシアの支援を受ける民兵組織が運営する「ノボロシア支援調整センター」は1月14日の記事で、ロシアのある部隊でドローンの損失率が異様に高くなったことを報告している。
「クラスノホリフカ(ウクライナ東部ドネツク州)の南方エリアに展開している第5旅団の偵察隊は、3日間で5機のクワッドコプター(回転翼を4基備えたドローン)を喪失した。具体的にはDJIの「Mavic 3」3機とAutel(オーテル、道通)の「EVO II Dual」2機である。失われたときの状況はどれも似通っている。まず最初にすべての衛星との通信が途絶え、しばらくして復活したかと思うと、クワッドコプターはすぐに落下に近い速度で急降下した」
オペレーターたちはやがて何が起こっているのかを理解した。ドローンは飛行禁止区域に入っていると「だまされ」、動作を停止していたのだった。
DJIなどのドローンメーカーは「ジオフェンシング」と呼ばれる仮想フェンスを設ける技術を利用して、空港周辺などの禁止区域にドローンが入らないようにしている。ウクライナ側はおそらく、スプーフィングによってロシアのドローンをジオフェンシングを越えたと誤認させ、墜落させた。
レジリエントナビゲーション・タイミング財団のデーナ・ゴワード理事長は、報告されているドローン墜落の様子には衛星ナビが欺かされたことを示す特徴があるとし、「スプーフィングの結果だったのはかなりはっきりしている」と述べている。
GNSSのスプーフィングは技術的に十分確立している。テキサス大学のトッド・ハンフリーズ教授は2013年、偽のナビゲーションデータを送り込むことによって、大型ヨットを事実上乗っ取れることを実証した。コースを外れていることを乗組員に気づかれずに、望みどおりの針路をとらせることが可能だったという。
GNSSには米国のGPSのほかに欧州のガリレオ、ロシアのGLONASS(グロナス)、中国の北斗がある。