また、黒海を航行する船舶のナビゲーションシステムでも、現在の位置が、30数キロメートル内陸にあるロシアのゲレンジク空港と表示されたという。これもロシアのスプーフィングの結果と考えられる。
ゴワードは欧州安保協力機構(OSCE)の特別監視団の報告から判断すると、ロシアはおそらくウクライナでの戦争以前からGNSSスプーフィングを行っていたと推測する。ただ、ウクライナ側がロシア側にスプーフィングを仕掛けたのは今回が初めてだった可能性がある。
ウクライナが現在用いているスプーフィングの技術は、もともとロシアで開発されたものだった可能性もあるという。「ロシアは2016年からスプーフィングについて吹聴してきたので、その技術を輸出していてもまったくおかしくない」(ゴワード)
ノボロシア支援調整センターの記事はロシアのドローンオペレーターの話として、スプーフィングは衛星信号に頼らない手動操縦モードに切り替えることで対処できるものの、切り替えはドローンが墜落する前に素早くやる必要があるとも伝えている。
記事によれば、似たようなかたちのドローン損失は「劇的に増えた」といい、1月2日以降、第5旅団の偵察隊はドローンの操縦を手動に限定したという。記事では、スプーフィングの利用は急速に広まっているとみられ、ほかのエリアのドローン使用者にも脅威になっていると注意を喚起している。
もっとも、DJIなどのドローンがスプーフィングで墜落しているという事実は、コンシューマー向けドローンが、各種の干渉に対してきわめて脆弱だということをあらためて浮き彫りにしただけだとも言える。
ドローンに対抗する電子機材がウクライナ側、ロシア側の双方でよく使われるようになっていることから、現在広く使われているドローンは今後役に立たなくなるとみる向きもある。ウクライナのドローン専門家は4月、英紙ガーディアンに「3〜4カ月後にはDJI(のドローン)は使い物にならなくなっているだろう」との見方を示している。
一方で、電波ノイズを除去する耐妨害性受信機を備え、スプーフィングなどへの耐性を高めた軍用GPS信号「Mコード」に対応した高度なドローンは、引き続き使用されるだろう。ウクライナの自爆型ドローンは、すでにロシアのGPSジャミングを突破しているとみられる。
ウクライナには戦場用の高度なドローンを製造するスタートアップの健全なエコシステムがあるのに対して、ロシアのドローン調達プロセスは惰性的で腐敗が横行し、依然として西側諸国の電子製品に依存しているのが実情だ。
(forbes.com 原文)