自走砲は歩兵支援に使われる兵器だ。歩兵部隊は、迂回(うかい)したり自力で破壊したりできない敵の防壁などに遭遇すると、無線で自走砲による支援を要請。自走砲が前進して敵陣に砲弾を撃ち込む間、歩兵は装甲の薄い自走砲を守る。
この種の軍用車両は、ロシアのウクライナ侵攻が続くにつれ、より大きな役割を果たすようになっている。特にウクライナ側ではその傾向が強く、同盟諸国は自走砲の供与を相次いで表明。これには「戦車」にも分類されるスロベニアのM-55SやフランスのAMX-10RCも含まれている。
ロシアの空挺(くうてい)部隊にはすでに、自走砲の2S25が数十門配備されている。その改良版である2S25Mは、2S25と合わせてウクライナで使用される可能性があり、バフムートで現在起きているような都市部での激しい戦闘における空挺部隊支援に最も威力を発揮するかもしれない。
だがロシアにとって、1つ問題がある。それは、2S25Mの製造が困難、あるいは不可能かもしれないということだ。
2S25Mは重量14トンのBMD-4空挺戦闘車の車体に、2A75 125mm滑腔(かっこう)砲とT-90の射撃統制装置を組み合わせたものだ。この射撃統制装置はデジタル照準器の「Sosna-U」を搭載しているが、これにはフランス製の部品が使われている。各国が発動した制裁により、フランスを含む外国からのハイテク製品輸入は大きく制限されている。
ロシアでは現代的な光学機器が圧倒的に不足しており、国内で唯一戦車を生産しているスベルドロフスク州のUralvagonzavod(ウラルバゴンザボド)工場では月にごく少数のT-72B3とT-90Mを生産するのみにとどまっている。
戦車補填の必要性に迫られたロシア政府は、長期保管施設から60年前のT-62や70年前のT-55を引っ張り出して利用し始めた。また、射撃統制装置を刷新した戦車(新型のT-72B3 Obr. 2022や、戦時備蓄だったものを整備したT-80)の多くでは、照準器としてSosna-Uの代わりにアナログの「1PN96MT-02」を使用しているが、その可視距離はSosna-Uの半分ほどだ。
2S25Mの生産はクルガン州のKurganmashzavod(クルガン機械工場)で行われる見通しとされるが、そのための光学機器はどこから調達するのだろうか? 毎月入手できる数少ない照準器を、2S25Mに割り当てることは可能だ。だが、それを使って同数のT-90M戦車を生産できるのであれば、2S25Mを優先する意味はあるのだろうか?
(forbes.com 原文)