見学ツアーが始まる前から、工場の中は大きな機械で金属をプレスする音や、連続的に機械が動いている音などいろんな音がまざりあい、これぞ工場見学!といった雰囲気に心踊る。金属の板をスプーンの形に合わせて連続的に型抜きする機械や、職人のペダルの踏み具合で模様のつきかたが変わる様子、一本一本細やかにする研磨作業など、どの工程も思わず見入ってしまう。
オープンファクトリーに参加したきっかけを尋ねると捧社長は「きれいな工場でもないしOEMがほとんどだから、見せてもしかたないと先代に言われてきた。世代交代と同時に息子に背中を押された」と笑顔で話す。
息子の開維常務取締役は「国産カトラリーの85%以上がこの燕市から出荷されているのに、地元の人でさえ燕市がスプーンの産地であることを知らない。何か行動して、発信していかないと技術も廃れていく」と危機感を抱き、次の世代への継承を課題に祭典に挑んだ。
そして「今年は私たちが主導しましたが、来年から若手社員に任せてみたい。自分たちのものづくりに誇りがもてるようになると、同年代の若い人たちにもそれが伝わるはず」とオープンファクトリーの可能性に期待を寄せる。
金属加工だけじゃない、燕三条の優れた技術
金物のイメージが強い燕三条だが、加工技術は金属にとどまらず、セラミックやプラスチック、木工など素材違いの成形技術も優れている。刃物を保護するケースを作るビニール加工のいづみ商会もそのひとつ。ガラガラと扉をあけ、靴を脱いで部屋に上がる。金属加工の工場と違って、どこか懐かしい雰囲気だ。すりガラスの引き戸をあけると、型抜きの作業台が並んでいた。熱ではなく高周波の分子振動によって塩化ビニールの型抜きを行い、スーっと型からビニールを剥がす作業を体験してみるとなかなか気持ち良い。部屋の奥には、包丁やハサミ、ネームホルダーなど商品ごとに形が異なる金型がずらりと並び、保管されていた。
いづみ商会は2019年に祭典へ参加。一度は参加をやめ、今年再び工場を公開した。
継続して参加する企業が多いなか、一度やめた理由を安達拓未社長にきくと、「お金も時間もそれなりにかかる。BtoBの企業だとどうしても『面白いね』で終わってしまうことも多く、前回参加したときは見合う効果を感じずにやめてしまった」と、事業者の本音が見えた。
しかし、一度参加したことで安達社長は「祭りで終わらせてしまうと、事業者の間で温度差が生まれる」という課題を感じたという。そこで団体「KOUBA」の副実行委員に手をあげ、自ら燕三条を変えていこうと、工場の祭典へ再参加を決意した。