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2023.12.18 08:00

「産地ブランドで終わらせない」新潟・燕三条の次世代につなぐ挑戦

燕物産の捧開維常務取締役

燕物産の捧開維常務取締役

10代目の捧和雄社長と11代目の捧開維常務取締役の案内で工場内を巡った。燕物産は、日本で最初の洋食器専門のメーカーとされる会社で、1本100円のステンレス製スプーンから高級レストランなどで使われる1万円の銀製スプーンまで 幅広い価格帯のカトラリーを生産・販売している。

見学ツアーが始まる前から、工場の中は大きな機械で金属をプレスする音や、連続的に機械が動いている音などいろんな音がまざりあい、これぞ工場見学!といった雰囲気に心踊る。金属の板をスプーンの形に合わせて連続的に型抜きする機械や、職人のペダルの踏み具合で模様のつきかたが変わる様子、一本一本細やかにする研磨作業など、どの工程も思わず見入ってしまう。

オープンファクトリーに参加したきっかけを尋ねると捧社長は「きれいな工場でもないしOEMがほとんどだから、見せてもしかたないと先代に言われてきた。世代交代と同時に息子に背中を押された」と笑顔で話す。

息子の開維常務取締役は「国産カトラリーの85%以上がこの燕市から出荷されているのに、地元の人でさえ燕市がスプーンの産地であることを知らない。何か行動して、発信していかないと技術も廃れていく」と危機感を抱き、次の世代への継承を課題に祭典に挑んだ。

そして「今年は私たちが主導しましたが、来年から若手社員に任せてみたい。自分たちのものづくりに誇りがもてるようになると、同年代の若い人たちにもそれが伝わるはず」とオープンファクトリーの可能性に期待を寄せる。

金属加工だけじゃない、燕三条の優れた技術

金物のイメージが強い燕三条だが、加工技術は金属にとどまらず、セラミックやプラスチック、木工など素材違いの成形技術も優れている。刃物を保護するケースを作るビニール加工のいづみ商会もそのひとつ。

ガラガラと扉をあけ、靴を脱いで部屋に上がる。金属加工の工場と違って、どこか懐かしい雰囲気だ。すりガラスの引き戸をあけると、型抜きの作業台が並んでいた。熱ではなく高周波の分子振動によって塩化ビニールの型抜きを行い、スーっと型からビニールを剥がす作業を体験してみるとなかなか気持ち良い。部屋の奥には、包丁やハサミ、ネームホルダーなど商品ごとに形が異なる金型がずらりと並び、保管されていた。


いづみ商会は2019年に祭典へ参加。一度は参加をやめ、今年再び工場を公開した。

継続して参加する企業が多いなか、一度やめた理由を安達拓未社長にきくと、「お金も時間もそれなりにかかる。BtoBの企業だとどうしても『面白いね』で終わってしまうことも多く、前回参加したときは見合う効果を感じずにやめてしまった」と、事業者の本音が見えた。

しかし、一度参加したことで安達社長は「祭りで終わらせてしまうと、事業者の間で温度差が生まれる」という課題を感じたという。そこで団体「KOUBA」の副実行委員に手をあげ、自ら燕三条を変えていこうと、工場の祭典へ再参加を決意した。

KOUBAで事業者内での温度差をなくす

オープンファクトリーで可能性を見出し、恩恵を受けている企業も多いなか、全ての事業者が積極的に取り組んでいるというわけではない。実際にやってみてメリットを感じなかったり、人手不足や安全を考慮して工場をあけることができない事業者があったりと、祭典への温度感はさまざまだ。そこで産地内の乖離をなくすためにも新団体「KOUBA」が設立されたのだ。
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文=川上みなみ 編集=督あかり

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