映画

2023.12.16 10:30

クリスマスに見たい映画「素晴らしき哉、人生!」。平凡な人生だって輝かしい

映画「素晴らしき哉、人生!」より イラスト=大野左紀子

ジョージ・ベイリーは家族を支え、生まれ育った小さな町をより良くしていこうする普通の人間、つまり圧倒的多数のアメリカ人に支持される良き市民なのだ。
advertisement

このようなジョージに対する町の人々の感謝の贈与は、終盤に降って湧いたように訪れるあまりにも不運な危機的状況の中で、再度思いがけないかたちで繰り返される。彼のささやかな善行とそれによって得た信頼が積もり積もって、最終的に彼と彼の家族を救う大きなプレゼントとなって返ってくる。
 
Getty Images

周囲5キロ圏内に何か良いものを

自分1人の飛躍を夢見て金持ちになりたいと望んだ男が、父の死によって夢を断念し、父と同じような地道で誠実な人生を送る。こう書いてみると、よくある話かもしれない。

多くの若者は、父親の人生をそのままなぞりたいとは思わないだろう。夢を見る若者は、自分がこの世に存在したことそれ自体に特別な意味があったと思いたくて、親とは別の道を進もうとする。ジョージももともとはそんな若者だった。

しかし不本意な運命を受け入れることになり、結果として、父を継いだ己の仕事には小さな町のあり方に影響を及ぼすほどの意味があったことを知る。
advertisement

普通の人は世界を変えるほどの影響力は持てない。しかし、自分の周囲5キロ圏内に何か良いものをもたらすことは、できるかもしれない‥‥。平凡な男の一見平凡な人生の輝きを力強く肯定するこの作品は、70年代に入って再評価され、アメリカでは毎年年末にテレビ放映されてきたという。

しかしこの作品が体現している、戦前戦後のアメリカがひとつの理想とした古き良きファーザーシップは、現在世界を二分している圧倒的な暴力の前に、いかにも無力に感じられるのも事実だ。憎悪と諦めが支配する世界で、正義の象徴だったかつての「父なる者」は姿を消したのである。

連載:シネマの男〜父なき時代のファーザーシップ
過去記事はこちら>>

文=大野左紀子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事