どのような望みを抱いたとしても、人生がその通りになることはない。その人の運命は、実は案外早い段階で決まっているものだ。それを粛々と受け入れて、よりよく生きるべきである。そうした宿命観が、このドラマを貫いている。
父の死去と理想の生き方
そして、ジョージの宿命の一番の鍵になるのが、父である。父の突然の死去で、世界旅行は中止となり、ジョージは自分のための進学資金を弟のそれに宛て、一旦父の住宅金融会社を引き継ぐ。しかしゆくゆく後継者として頼りにしていた弟は大学卒業後、婚約者の父の仕事を手伝うことになり、再びジョージの夢は消える。
自分の家を持つことが幸福の証であった時代。ジョージは建築家になって華々しい成功を収める夢を諦め、町の住宅金融業者として低所得者に住宅資金を安く融資する地道な仕事に従事していく。つまり彼は当初の自分の理想とは逆に、亡き父の影響の元で、父と同じような生き方を結果として選択せざるを得なくなるのだ。
父の跡を継ぐ、それは自分の未知の可能性を試したい若者にとって、非冒険的で保守的な生き方と言えるだろう。ジョージを演じているのが、やたら上背はあるが「普通の人」のイメージの強いジェームズ・スチュワートであるのも、また彼がいわゆる「善良なアメリカ人」を数多く演じてきた俳優であることも、ここにだぶる。
アメリカという国の「外へ外へ」と進出し新規性を取り入れていくいわゆる開拓精神とは別の、父の名を守り、父の精神を受け継ぎ、日々コツコツと労働して共同体を維持していく旧来的な生き方。それを尊いものとする考え方が、本作では明確に表現されている。
ジョージがメアリーと結婚しハネムーンに出かけようという時に、町を牛耳るヘンリーの悪巧みで取り付け騒動が起こり、預けていた金を下ろそうと人々が会社に押しかける。そこでジョージとメアリーは自分たちのハネムーン資金を人々に回して急場を凌ぐ。
その結果、空き家だった古い屋敷の一部を急遽ホテルのように繕って新婚の2人を祝うというのが、人々のささやかな返礼となった。これを機に、このボロボロの屋敷を改修しながら2人は住まうことになる。
”金儲けは二の次”の良心的な仕事ぶりで人々の信頼を得ていくジョージの存在が面白くないヘンリーは、金の力でジョージを懐柔しようとして失敗する。既に子供4人を抱えて黙々と働くジョージの中で、一瞬生じる迷いと、金持ちになるチャンスをふいにした後悔を振り切っていく様子は、彼が決して聖人ではないことを物語る。