1919年、12歳のジョージは水に落ちた弟を助けたことが原因で片耳が聞こえなくなるが、元気で利発な少年に育っている。使い走りをしているドラッグストアで「金持ちになれますように」と無邪気におまじないを唱えたり、同じ年頃のメアリーが、彼の聞こえない方の耳に向かってこっそり想いを告白するシーンが微笑ましい。
一方、ジョージの父親は住宅金融の小さな会社を営み、あこぎな商売で人々を苦しめている賃貸業者で町一番の富豪ヘンリー・ポッターと対立している。
興味深いのは、この少年時代のさまざまなエピソードに、このあと描かれていく彼の人生のエッセンスのすべてが詰まっていることだ。
弟を助けようと水に飛び込む場面は、プロム(高校卒業ダンスパーティ)でメアリーと踊りながらプールに落ちるシーンと、最後に自殺しようとした川で人が溺れているのを見て思わず飛び込むシーンで繰り返される。いずれも彼の人生の方向を決定づける瞬間だ。
ほかにも、ドラッグストアの店主の重大なミスを防いだのに誤解されて叱られる場面は、ジョージの機転と今後突き当たる数々の困難を象徴しているし、メアリーの告白が聞こえないところは、成長後の彼女の愛になかなか気づかない、どこか無粋なところのあるジョージの姿を表している。
そして何よりも、強者ヘンリーの脅しに怯むことなく立ち向かう父の姿勢は、のちのちのジョージの振る舞いに色濃く現れてくるのだ。
高校を卒業したジョージは、大学を出て世界中を旅した後、都市計画に関わる建築家になり大金を稼ぐという夢を抱いている。父を深く尊敬はしているが、町に残って小さな会社を継ぐ気はない。
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プロムでメアリーとチャールストンを踊り、プールに落ち、珍妙な格好に着替えた2人が恋愛未満のやりとりをしながらそぞろ歩く一連のシーンは、上質なロマンチックコメディのムードに満ちて楽しい。同時に、2人のこれからが平穏無事とはいかないことも暗示している。
2人が何十年も空き家となっている古い屋敷の窓に石を投げて願い事をするシーンは、「この町を出ていく」というジョージの夢とは裏腹に、やがてその古屋敷に住まい、この土地に深く根ざして生きることになる彼の将来を示している。