育った町から進学や就職で都会に出たのち、再び地元に帰って就職や再就職をする「Uターン」の他、住んでいた場所から別の地方へ移住する「Iターン」、一旦都市に出たのちに故郷とは異なる地方に移住する「Jターン」などの動きもある。
しかし生まれ育った土地を離れず、そこで家業を継ぎ、地元に根ざして生活するという昔ながらの生き方も残っている。
今回は、大きな夢を抱きつつもそんな生き方を選ぶことになったある男の人生を、ファンタジー的な設定で描いた往年のヒューマンコメディの名作、『素晴らしき哉、人生!』(フランク・キャプラ監督、1946)を取り上げよう。
「あの男を救ったら翼をやろう」
最初の舞台は1945年のクリスマスの雪の夜、ニューヨーク州の片隅の小さな町。神に助けを求める男の呟きを聞いた天使は、二級天使クラレンスを呼びつけ、「自殺しようとしているあの男を救ったら翼をやろう」と約束する。手始めに天使は、なぜその男ジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュワート)が現在の窮状に至ったのか、クレランスに彼のこれまでを見せる。ここから、ジョージの少年期からの人生が綴られていく。つまりこの物語は、天使の視線という超越的な立場から、一人の男の半生を振り返るという構造になっている。
ジョージ・ベイリー役を演じたジェームズ・スチュワート(1938)/ Getty Images
ドラマ終盤で絶望の淵にある”現在”に戻った時、「生まれてこなければ良かった」と言うジョージにクレランスは、”ジョージがこの世に存在しなかった”という設定による荒廃した町と人々の有様を見せる。それにショックを受け、自分の人生が実は意義深く素晴らしいものであったことに気づいたジョージが家に帰ると、奇跡のような逆転劇が待ち受けており大団円となる。