コミュニケーションと情熱は、最も有効な「感情的投資」
清水:日本の経営者で、稲盛和夫さんという方がいらっしゃったんです。日本航空(JAL)を再建した手腕を発揮した際、さまざまなコストカットに取り組んだ一方で、従業員のための社内報やコミュニケーションに関わるコストは下げなかったといいます。ビズの「ティータイム」改革を伺った時、その話を思い出しました。ビズ:コミュニケーションは、多すぎて困ることはないと思います。例えば、経営が悪化している会社の取締役会で、CEOが何も言わないと「このCEOはこの状態を本当に分かっているのか?」と周囲に不安を抱かせてしまう。しかし、日頃からコミュニケーションが取れていたなら「まあ少なくともCEOは、何か対応している」と捉えられるからです。
清水:経営者やスタートアップの方々に「お金だけじゃないんだ」と伝えることは意義あることだと思います。
ビズ:コミュニケーションや情熱を、私は「仕事への感情的投資」と考えています。この仕事を本当にやりたい→仕事が好きになる→するとお金がついてくるのです。
清水:これまでTwitter社は、たくさんのCEOが入れ替わりました。そこで、なぜビズは、誰とも喧嘩せずにやってこれたのか? そのあたりの考え方を知りたいです。
ビズ:自分自身では、よくわかりません(笑)。私は、誰にでも親切にして、相手を笑わせるのが好きで、仕事を楽しんでいるだけです。人が好きなのかもしれませんね。その人の素晴らしい部分を見て、マイナス面には、気づかないことがよくあります。そこが、ビジネス的にはよくない場合も時にはあるのですが。
清水:アップルの創業者のひとりウォズにも、そういった穏やかさを感じます。彼は常々「幸せに過ごすことが究極の目的だ」と言っていますが、ビズは、幸せについてどう考えていますか?
ビズ:実は、私は元々アーティストになりたかったのですが、偶然にもテクノロジーの分野にたどりつきました。だから今でも、自分がビジネスマンだという人生が信じられない(笑)。賢く面白く創造的な人々に出会えたので、今の仕事に繋がっているのですが。2003年から働いたGoogleも楽しかったし、Twitter社の前身となったポットキャスティングの会社(オデオ)でも、さまざまな人とのコミュニケーションが刺激的でした。いまは、若い起業家たちと話している時が一番面白いかもしれません。
清水:ビジネスにおいて、私は「絆徳(ばんとく)」という概念を大切に考えています。「あなたが相手によいことをすることによって、ずっと一緒にいられる関係性」という概念を経営スクールで伝えているのですが、この考え方を、どう思いますか?
ビズ:会社が利益を出すことと、社会によい影響を与えることとの両立は、持続可能な会社経営のうえでうまくいくと確信します。SNSやYouTubeで、「何でもたったの2分」で学べる時代を生きているいまの若者たちは、お金を稼ぐだけでなく、よいことをしている会社を選びたがっているからです。だから、儲け主義の会社は敬遠されてしまうでしょう。
1960年代にジョン・F・ケネディ大統領がNASAのジェット推進研究所を訪問した時の話です。ロケット開発に取り組んでいるチームのひとりひとりに自己紹介し、トイレでモップを持っていた清掃員に「こんにちは。私はジョン・F・ケネディです。ここで何をしているのですか?」と尋ねたところ、「私は月に人を送るのを手伝っています」と答えたといいます。開発員だけでなく、トイレの清掃員でさえ、強いミッションを持っているのを知った時、清々しい気持ちになりました。そうやって、人は、大きなビジョンやモラルの中で仕事したいものだし、相手に「よいこと」をしたいもの。だから、清水さんの「絆徳」の哲学には、強く同意します。