中村天風の残した言葉は、西洋の経済合理性や成功哲学を含んでいるのと同時に、東洋的な精神性や「あり方」の両面を持ち合わせていて、日本のビジネスリーダーには非常にマッチする、と私は考えています。前回までのインドの山奥での修行体験記や、SDGsの記事と合わせて、これからの時代のサステナビリティを実現するためにも、持続可能な経営のヒントとして、今月は中村天風の教えを共有したいと思います。
10代で出会った本から、経営者へ 経営理念が構築
長期にわたって実績を出し続けている経営者は、必ずと言ってよいほど、経営理念を高めるための哲学書や歴史書、自己啓発書を読んでいます。それは、論語などの中国古典であったり、仏教書であったり、聖書から学んでいる、という方もいます。その中で、20世紀に日本のリーダーに最も大きな影響を与えたと言っても過言でないといえる自己啓発書を書いたのが、中村天風氏です。
現代人にとって、古典や宗教書は何となく難解そうで、とっつきづらく読みにくいと感じられるものです。その一方で、中村天風氏の書籍の中で語られている、その口調はざっくばらんとしていて親しみやすい。語っている内容が的を得ていて、ダイレクトで心に響く。しかも、内容的には高度でも、分かりやすくて頭にすっと入ってくる。中村天風氏の思想は、インド発祥のヨガを中心としているものの、西洋的な合理性や論理性を含み、かつ実践方法も兼ね備えているので、実践しやすいのです。
個人的に今年の夏は、インドの山奥に修行へ行き、2週間もの間、携帯電話に触らないデジタルデトックスはおろか、他人と話すことさえ禁止されたプログラムを体験して内面と向き合ったことで、過去の自分の体験を思い起こす機会を得ました。そうやって、インドの山奥で風に吹かれて瞑想をしていた時、日本に初めてヨガを伝道した中村天風を思い起こすことになりました。いま思えば、私は高校生の時に、本屋で偶然見つけた中村天風の『運命を拓く』という本をきっかけに、10代の頃から彼の書籍を読みまくっていたものです。
私は、現在では経営者や起業家向けの「絆徳(ばんとく)の経営スクール」を主催する会社を経営しておりますが、もしかしたら、この本に書かれていた言葉の一語一語が柔軟な10代の脳にインプットされたことで、経営者の道を歩み、経営学を追求する今の仕事に進んだのかもしれません。そして、自身の会社では「絆徳(ばんとく)」という西洋と東洋を融合した確固たる経営理念も生まれました。
あの大谷翔平も、高校時代から中村天風の本を読んで、野球に対するイメージトレーニングを積んでいたエピソードも有名ですし、テニスの松岡修造、モデルの長谷川理恵や、経営者の事例をあげれば、松下幸之助(パナソニック創業者)、稲盛和夫(京セラ創業者)、倉田主税(日立製作所元社長・会長)、永守重信(日本電産創業者)、越後正一(伊藤忠商事元社長・会長)、飯田清三(野村証券元社長)などきりがないほどたくさんのリーダーが中村天風を学び、影響を受けたと言われています。そう考えると、想像以上にたくさんの日本人が、直接的にも間接的にも、中村天風から大きな影響を受けているのではないでしょうか。