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2023.10.04 11:15

大谷翔平も感銘を受けた! 経営者は中村天風を学べ。時代を超えた金言と持続化経営との共通点

失意から逆転させる、道を切り拓く力を蓄えよう

ここで波瀾万丈な中村天風の人生をおさらいしましょう。

1876年、東京生まれの中村天風は、大蔵省初代抄紙局長を父に持ち、学生時代は英語をマスターし、柔道部のエースとして活躍する文武両道派。そこから一転し、日露戦争の軍事スパイに抜擢され満州で活躍後、無理がたたったのか、肺結核を発病し、そこから人生について深く考えるようになります。そんな時に、アメリカの自己啓発書に触れ、感銘を受けて渡米。アメリカでは、コロンビア大学で医学を学び、それでも病はよくならない。ワラにもすがる思いでヨーロッパに渡り、一流の哲学者を訪ねたりするも、答えが見つからず。

失意のなか「日本に帰って死のう」と、帰国を決意。その帰路で、偶然にもヨガの聖師カリアッパと運命的に出会い、カンチェンジュンガ山麓で修行生活に入ることになりました。そこで「我とは何か?」と真理を悟り、どれだけ最新の医療でも克服できなかった難病をなんとヨガで克服! 帰国後ヨガを日本に伝道し「心身統一法」を考案します。「心と体を健康に保つことで、幸せな人生を歩む」この教えは、現代のウェルビーイングにつながると私は思うのです。

また、インドから戻ると、なんと孫文の第二次辛亥革命に協力し、中華人民共和国の最高顧問や、東京実業貯蔵銀行(後に三菱銀行に合併される第百銀行の前身)の頭取などを歴任し、実業界でも活躍していました。そして、中村天風は43歳で、現在の「天風会」の前身となる「統一哲医学会」を結成し、政財界の実力者に教えを説いていました。

影響を受けた人物は、先にも紹介した通り、松下幸之助や稲盛和夫から、テニスの松岡修造や野球の大谷翔平もそのひとり。原敬元内閣総理大臣や、東郷平八郎、山本五十六、元横綱の双葉山、宇野千代やロックフェラー三世まで、それぞれ分野で影響力を持つ多様な大物ばかり。イメージで言えば、現在のアンソニー・ロビンズみたいな存在だったのかもしれません。ちなみに、天風の亡き後も後継者が継続している「天風会」は、宗教団体かと思われる方も多いですが、無宗教です。むしろ、中村天風は「クリストも、釈迦もなかりけり」と、思想やイデオロギーをまったく気にされない方でした。

半世紀前から説いていた?! 株主至上主義への脱却

2019年、アメリカ最大の経済団体、ビジネスラウンドテーブルで、「株主至上主義からの脱却」が宣言されてから、経済界は、利益を優先する考えから一転。社会的責任も持っていようよ、に切り替わりました。「自分だけがよくなればいい」ではなく、「みんなでよくなる社会」に向けて、世界のベクトルが大きく変わってきました。

インドでの修行中、その世界の流れを感じながら、中村天風が「このままでは死ぬ」と言われた不治の病をインドで克服したということが、私の中でつながったのです。つまり、病の原因を切り落として、健康な部分だけを残すのではなく、本質的な「健康な状態」を理解し、それに向かうこと。経営視点で言えば、悪い部分や弱い部分を取り除くのではなく、「理想の状態」を意識し、「持続可能なモデル」を実現する。ドラッカー的に言えば、「強みを活かし、弱みを意味のないものにする」という言葉と何かがつながった気がしたのです。

世の中が「三方よし」を実践していかないと経営は続いていかないと、SGDsを念頭に置いた経営へ切り替えた時、遥か半世紀前から現在も支持されている中村天風との共通点が見えてきました。それは、「西洋的ビジネスの成功哲学に、東洋的なサステナビリティを掛け合わせた、両方のいいとこどりが結局いいよね」という考え方なのです。
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文=中村麻美

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