偉大な企業は、弾み車を1回転させて頂点に戻ったら、累積した経営資源のエネルギーと勢いで弾み車を回し続け、さらなるパーパスの実現という高みを目指す。大いなる規律をもって弾み車のループを強化して経済的エネルギーを生み出し、パーパスをさらに実現していく。ステークホルダー的な考え方は弾み車の概念に通じるところがある。
現在の潮流を支持しているが、トレンドに従うのではなく、内からわき出る「本物」の魂に突き動かされているかどうかがカギだ。米製薬大手メルク元社長のジョージ・メルクは、利益でなく患者のために医薬品を開発するというビジョンをつくり上げた。井深も本物のビジョナリー・リーダーだった。
夫の死でワシントン・ポスト紙の最高経営責任者(CEO)になったキャサリン・グラハムも本物だった。彼女は、ベトナム戦争をめぐる米国防総省の機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」や、(ニクソン政権失脚につながった)ウォーターゲート事件など、大スクープの報道という苦渋の決断を果敢に下した。謙虚だが、自社のパーパスに身を捧げ、ジャーナリズムの役割に関する自分の信念を貫いた。
自社に不利益が生じる恐れがあっても、「やる」と言えるか。それが自社をつくる道だと信じ、「イエス」と答えられるのなら、その決断は正しい。トレンドという外的な要因ではなく、自分自身の「魂」からほとばしり出るものだからだ。
──あなたは、「ビジョナリー・カンパニー」や、運の利益率が高い「10X(倍)型企業」など、複数の言葉で「偉大な企業」を定義してきました。
コリンズ:まず、「偉大な企業」を特徴づける定義とは「アウトプット」であり、一方、偉大な企業をつくるためにやるべきことが「インプット」だという点を明確にしておきたい。このふたつは違う。
偉大な企業とは、アウトプットの3つの基準を満たし、長年にわたって存続する企業を指す。まず、1つ目が「卓越した結果」を出すこと。ずば抜けた投下資本利益率を達成する必要がある。
2つ目が「唯一無二のインパクト」だ。自社がなくなったら、他社では埋められない空白が生じるか? カギは卓越性や、世界への多大な影響・貢献によって、かけがえのない存在になることだ。
3つ目が「永続性」だ。卓越した結果や唯一無二のインパクトを長きにわたって達成することだ。創業者がいなくなっても、経済的・技術的サイクルを何度も経て、偉大さを保たねばならない。企業の成功とは、ひとりのリーダーやひとつの技術・製品ではなく、その会社が永続する「力」のことだ。
米マイクロソフトや米アップルが好例だ。いずれも1970年代半ばごろに創業。偉大なスタートアップになった。低迷期もあったが、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズという伝説的な創業者の下で成長した。そして新指導者の下、人工知能(AI)やクラウドなど、新たなテクノロジーで勝負している。
ゲイツやジョブズがどれほど偉大でも、永遠には君臨できない。本物の偉大な企業なら、彼らなしでもやっていけることを証明できるはずだ。マイクロソフトにもアップルにも半世紀近い歴史がある。「永続する偉大な企業」の名にふさわしい。