邦訳版刊行から優に2年半以上たったいまも売れている本がある。『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』(ダイヤモンド社、児島修・訳)だ。著者は、米ヘッジファンドマネジャー、ビル・パーキンス。
「ただ貯めるだけの『生ける屍(しかばね)』にはなるな」と、彼は言う。パーキンスが考える仕事とお金、幸せの方程式とは。
──『DIE WITH ZERO』がこれほど読まれている理由は何だと思いますか。
ビル・パーキンス(以下、パーキンス):日本に限っていえば、貯金をして将来に備えるという強固な文化が根付いている国だけに、それに逆行する拙著に人々が関心をもったのではないか。
書籍では、「お金とは? 人生とは?」という、誰もが抱く問いに対し具体例を挙げて答え、人生の楽しみ方やお金の使い方を示した。読者は、「人生を楽しむためにお金を使ってもいいんだ」と感じたのだろう。お金持ちになるためのハウツー本は多いが、お金というツールを使って人生の幸福感を高めるための本は少ない。
──英語版も売れましたね。
パーキンス:富と健康、時間というリソースを生かして人生の喜びを高めるという考え方は、富裕層に限らず、誰もが自分の人生に活用できるものだ。それが、多くの読者に支持された理由だと思う。
「お金はあの世にもっていけない」「人生は一度きりだ」といったことは周知の事実だが、拙著では、その概念を人生の意思決定に応用し、充足感を最大化するためのメンタルな処方箋を示した。
現代人には、時間やお金、健康をいかに最適化して人生の喜びを高めるかについて多くの選択肢があるからこそ、正しい選択をするための指針が必要だ。
──あなた自身の、キャリアに関連したお金の失敗を教えてもらえますか。
パーキンス:20代のころ、薄給にもかかわらず、貯金をしすぎ、人生を楽しみ損ねた。将来、もっと稼げるようになるというのに、「若く貧乏ないまの自分」からお金をむしり取っていた。意識的に物事を決めることなく、「流されて」生きていた。
──上司がこう言ったそうですね。「お前はバカか? はした金を貯めやがって。これからもっと稼げるようになる」と。
パーキンス:人生が大きく変わった瞬間だった。薄給をやり繰りして貯金にいそしむことで、20代でしかできない経験を逃していたことに気づいたからだ。それ以来、お金の目的や、どのような使い方が自分自身を充足させるのかについて深く考え始めた。上司のひと言が、人生全体を俯瞰する契機になった。