3つ目の神話が、「報奨金」で士気が上がるという考え方だ。私たちの研究でも、報奨金が重要な効果を発揮することはわかったが、報酬制度を変えれば良い会社から偉大な会社に飛躍できる、ということは実証されなかった。肝心なのは人選だ。正しい人材を採用すれば、報酬にかかわらず自発的に動く。報酬の目的は「正しい人材」を引き留めることにあり、やる気を引き出すことではない。
4つ目が、「テクノロジーが偉大さを生み出す」という神話だ。テクノロジーは弾み車を加速させ、偉大な製品やサービスを後押しするものだ。
米アマゾン・ドット・コムの弾み車を例に取ろう。私の「弾み車」の概念からヒントを得たそうだが、同社は機械学習やAIなどのテクノロジーをうまく使い、(ネット通販サイトの訪問者増など)弾み車の勢いを加速させている。アマゾンを偉大にしているのは、顧客に関する弾み車だ。
5つ目が、「偉大な企業は利益追求を最大の目的としている」という神話だ。偉大な企業のパーパス・目的は、世界が自社の製品・サービスなしでは回らないような並外れたものを提供することだ。
──『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』(日経BP、共著者ビル・ラジアー、土方奈美訳)には、「永続する偉大な企業をつくるには何が必要か」という、あなたの研究を凝縮した「ザ・マップ」が載っています。そして、「もっとも本質的な12の原則」が段階別に書かれています。
コリンズ:長年にわたる研究を概念的フレームワーク(枠組み)で表したかった。フレームワーク化するのが好きでね。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズを、「偉大な企業をつくるには」というひとつの大規模な研究だとみなしたら、「どのようなフレームワークになるだろう?」と考えたのだ。
ここで、私自身の「弾み車」について少し話したい。まず、頂点は「好奇心に従い、次の大きな疑問を探す」ことだ。時計回りに移動し、次の構成要素は「研究を行い、そこから学びを得る」こと。そして、次が肝の部分だが、大がかりな研究結果から得た情報という「カオス」を「概念」に落とし込む。そして、「本を書き、考えを教示する」。これが弾み車の右半分、つまりパーパスの実現だ。
次に左半分だが、本で示した「アイデアの力を通して世の中にインパクトを与える」。それが順調に行けば、「資金ができ、次の大きな疑問に取り組むための(経済的)エネルギーが生まれる」。そして、頂点に戻る。この弾み車を30年間回し続けた成果が一枚のマップになった。満足している。