コリンズ:私は65歳だが、まだ「キャリア中盤」だと思っている。というのも、偉大な経営思想家ピーター・ドラッカーとの出会いが、私の人生に大きなインスピレーションと影響を与えたからだ。
私が36歳、ピーターが80代半ばのころ、私は彼にこう尋ねた。「26冊の著書のなかで、どの本を最も誇りに思いますか」と。彼の返答は秀逸だった。「次の作品だよ」と答えたのだ。私は彼の言葉に感銘を受けた。ピーターはその後、(95歳で)生涯を閉じるまで、10冊の本を書いたのだが、全著作の3分の2は65歳以降の作品だ。すごいだろう?
私も今、次の作品に集中している。7年間の研究を経て、執筆の真っ最中だ。ここで、サプライズがある。次作では、企業や組織ではなく、「ビジョナリーな人生」を送った人々を取り上げる。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズならぬ、『ビジョナリー・ライフ』シリーズが始まるかもしれない。並外れた人生を送った男女の生き方を系統立てで分析する。現存する人も亡くなった人もいる。
研究対象者の全人生を足すと、実に2811年になる。企業人だけではない。科学者や芸術家、宇宙飛行士、政界や法曹界の人々もいれば、医療関係者や軍人もいる。さまざまな人生を歩んだ人々だ。私の著作のなかで最もエキサイティングかつ最大の大作になるだろう。読者の皆さんに刺激を与え、元気づけられるような本にしたい。次作は私にとって、新たな「チャプター(章)」、つまり、人生の新段階の幕開けになる。実にワクワクする。研究対象の半数が女性というのも、今回が初めてだ。これほど精力的に取り組んだプロジェクトはない。
──いつごろ、書き上がりそうですか。
コリンズ:できるだけ早く! 日ごろ、取材をあまり受けないのも執筆に専念するためだ。これはピーターから学んだことだが、私はいつも自分自身の言葉で書く。誰かに書いてもらうよりも、思考を研ぎ澄ますことができるからだ。実は前作まで、書くこと自体を楽しいと思えなかった。研究は楽しめるのだが、執筆には苦労した。だが、今回は初めて楽しいと感じる。これは幸先が良い。
伝えたい「5つの神話と現実」
──『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』と『ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』(日経BP、共著者モートン・ハンセン、牧野洋訳)で、偉大な企業にまつわる「神話」と「現実」について書いていますね。日本の経営者に伝えたい神話を教えてください。コリンズ:5つ紹介しよう。1つ目は、「ビジョナリー・カンパニーには、ビジョンをもった偉大なカリスマ的指導者が必要」という神話だ。実は、偉大な企業にカリスマ的指導者など必要ない。『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』(日経BP、山岡洋一訳)で書いたが、カリスマ的指導者は、むしろ会社をだめにすることがある。
謙虚さと不屈の精神、控えめさと大胆さという二面性に富む「第5水準の指導者」が偉大な企業をつくる。カリスマ性にこだわるのは見当違いだ。