偉大さとは「動的プロセス」
──『ビジョナリー・カンパニーZERO』第6章で、「地図をたどった先にあるもの」として、偉大な企業への道は狭く、大多数の企業が偉大な企業になれないか、偉大になっても凋落すると書いていますね。一方、わずかとはいえ、「偉大さを維持した会社」もあるのは「希望の持てる話」だと。両者の違いは?コリンズ:『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』では、偉大な企業も凋落しうるという厳しい事実を示した。100年にわたって業界一偉大な企業だった米ゼネラル・エレクトリック(GE)が低迷するのを目にしたら、誰もが怖くなる。本に書いた通り、1955年に主要企業500社入りしていた会社の85%が、2008年時点ではなくなっていた。
衰退には段階がある。成功で傲慢になり、規律なき拡大路線を取る。リスクと問題を認めず、一発逆転を図る。そして、最終段階が「凡庸な企業への転落か消滅」だ。しかし、非の打ちどころのない企業などない。どの企業も、どこかの時点で苦境に陥る。アップルやマイクロソフトでさえ、そうだった。
偉大な企業とは「完璧な企業」ではない。偉大な企業を特徴づけるカギは「回復力・粘り強さ・打たれ強さ」だ。困難からはい上がり、むしろもっと強くなって復活する力だ。危機を脱するには、マップの原則に立ち返る必要がある。人選の変更など、「人」から始め、弾み車を作り直す。「正しい人」を選んでこそ、弾み車は回る。そして、価値やパーパスを再確認する一方で、会社を変革していく。
どれほど成功しても、マップの「終点」にたどり着くことはない。「明日は常に今日より、より良くできる」からだ。人間はいずれ死ぬが、企業は永続できる。「わが社は偉大だ。もう上がりだ!」と考えているのなら、すでに衰退は始まっている。
50年続いても、「良いスタートを切った」くらいに考えよう。「偉大さは静的なゴールではなく、動的なプロセス」と書いたが、常に「次」を目指すことが重要だ。ピーターは、80代半ばにして次作に期待を込めていた。偉大な企業は、どれほど大きな成功を収めても振り返らず、先を見つめ、強迫観念にでもとらわれたかのように「次は? その次は?」と前進し続ける。偉大さとは「動的」なものだ。
人生はロングゲームだ。ゲームから降りない限り、運が開ける。若い起業家に言いたい。「幸運は諦めない者に訪れる」と。歴史が浅い企業の経営者は倒産を案ずるものだが、重要なのは幸運に恵まれることではなく、粘り強く踏ん張ることだ。
たとえ暗闇や困難のなかで不安に打ちひしがれても、ゲームを長く続ければ続けるほど、チャンスも増す。幸運は諦めない者に訪れる。
ジム・コリンズ◎『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(ジェリー・ポラスとの共著)など世界1000万部超のロングセラー『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの著者。米コロラド州の研究ラボを拠点に四半世紀以上にわたり偉大な企業を研究。2017年米フォーブス誌「現代の経営学者100人」にも選出。