コリンズ:第1段階は「規律ある人材」だ。偉大な企業は「人」から始まる。ここに該当する1つ目の原則が「第5水準のリーダーシップ」の醸成だ。謙虚さと不屈の精神をもつ「第5水準のリーダー」の好例は、先述したキャサリン・グラハムだ。
2つ目の原則が、「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」だ。ビジョナリーな製品を次々と生み出したスティーブ・ジョブズでさえ、「人」から始めた。2007年に彼から電話をもらったときのことだ。「アップル復帰の際、まず何に力を入れたのか」と尋ねると、ジョブズはこう答えた。「人探しだ。(低迷していた)アップルの可能性をいまだ信じている人々を社内から発掘することだった」と。
第2段階「規律ある思考」に属する3つ目の原則は「ANDの才能」だ。「OR(または)」という二者択一ではなく、「AND(そして)」という規律ある思考をもつ。前述したジョージ・メルクは医薬品を患者のためと信じつつも、患者と利益をトレードオフ(二律背反)とはみなさず、さらなる医薬品への投資のためには利益を上げる必要がある、と考えた。
次は、「規律ある思考」の非常に重要なポイントである4つ目の原則「厳しい現実を直視する」ことだ。暗黒のなかでも「最後には勝つ」と信じつつ、「厳しい事実」に対峙する。衰退末期の米ゼロックスを再建したアン・マルケイヒー元CEOが好例だ。
5つ目の原則は「ハリネズミの概念」を明確にすること。「情熱を持って取り組める」「自社が世界一になれる」「経済的競争力を強化する」という3基準を満たす「1つの大きな事柄」に集中する。この好例が、米サウスウエスト航空を最も成功した航空会社といわれるまでに成長させた共同創業者のハーブ・ケレハーだ。彼は、「活気のあるベストな格安航空会社」という概念に忠実であり続けた。
第3段階「規律ある行動」に属する6つ目の原則は「弾み車」だ。弾み車を回転させて勢いをつける。これを具現化した代表的な経営者は、アマゾンの創業者で前CEO・現会長のジェフ・ベゾスだ。
7つ目の原則は「20マイル行進」だ。規律ある行動で20マイル行進を続けると弾み車が勢いを増し、画期的躍進につながる。米インテルの共同創業者ゴードン・ムーアが好例だ。彼は、半導体の集積率を18カ月ごとに倍増させるという「ムーアの法則」を提唱。「テクノロジーの行進」に努めた。
8つ目の原則は、「銃撃に続いて大砲を発射」し、更新と拡張を続けることだ。バイオテクノロジー業界の先駆者で米アムジェン初代CEOのジョージ・ラスマンは、多くの技術開発を通して大量の銃弾を発射。有望なバイオ製薬にリソースを集中投下させて大砲を撃ち、業界初の大型新薬をものにした。
そして、最後が第4段階「永続する組織」だ。ここに属する9つ目の原則が、「建設的パラノイア」で衰退の5段階を避けることだ。アンディー・グローブ米インテル元CEO・会長は「パラノイア(妄想症)だけが生き残る」と信じ、警戒を怠らなかった。
10番目の原則「時計をつくる」は、先見性を発揮して「時を告げる」ようなカリスマ的指導者に頼ることなく永続する企業をつくる、という意味だ。米複合企業スリーエム(3M)の元会長ウィリアム・マックナイトは、企業がイノベーションを起こし続けるための組織的プロセスを考案し、「イノベーションの時計づくり」を行った初の経営者だ。
11番目の原則は「基本理念を維持し、進歩を促す」。本物のビジョナリー・カンパニーは中核的なパーパスを守る一方で、進歩や変化を促進すべく、「社運を賭けた大胆な目標」(BHAG=Big Hairy Audacious Goal )を設ける。1993年に米IBMのCEOに就任したルイス・ガースナーは基本理念を維持し、進歩を促して同社を危機から救った。
12番目の原則は「10X(倍)型企業」。つまり、「運の利益率」を高めることだ。偉大な企業は運に恵まれているのではなく、幸運からより多くのリターンを得る。誰もが、人生には運の力も働くことを知っているからこそ、私はこの原則が最も好きだ。