昨年同社に入社した姫野氏の初ミッションは、先行して発信されていた、日本語による大量のリリース原稿の英訳だった。そもそも「コンニャク」という加工食品は、海外にない。「コンニャクの何たるか」を説明するところから世界に同製品をプレゼンする、という仕事を任されたのだ。
ところが再発信してみると、驚くべき「逆転現象」が起きた。植物由来であることが魅力と取られ、「コンニャクでできているから買う」という購買動機が喚起されたのである。
実は日本国内では、「コンニャク由来」である事実はとりわけ強い関心を集めなかった。前述した「生生しさ」「柔らかさ」「みずみずしさ」「リアリティ」こそがひたすら、魅力として受け容れられたのだ。
だが、海外ではエコであることの価値が日本よりもずっと高い。「弊社の模擬臓器は着色剤以外は食べられちゃいますからね。コンニャクは廃棄もしやすい、究極のエコ素材です」と姫野氏。
また、宗教や主義が実際の行動に影響を与えることも格段に多い。たとえばイスラムの国での医師のトレーニングにはプラスティック系のキットや、実際の人体(cadaver=キャダバー)が使われている。だが、前者はリアリティの面で劣るし、献体はオン・ザ・ジョブ・トレーニングでそうそう何度も使えるものではない。
また、主義上、豚を使いたがらないビーガンやベジタリアンの医師たちの人口も、日本国内に比して圧倒的に多いのだ。
「それこそが、模擬臓器の弊社内での海外シェアが5割にも及んでいる理由ですね」(高山氏)。
コンニャクで「VR」「AR」のシミュレーション教育を超える!
アメリカの医療現場では目下、どんなシミュレーション教育がされているのかというと、「VR、ARが主流」(高山氏)だ。「VRやARでの手術シミュレーターは、視覚的なリアリティーが抜群だし、ここをまず剥離する、ここを切ると出血する、といった手術の『ストーリー』を学ぶイメージトレーニングには適している。でも感触トレーニングに関しては、電気的負荷をかけてリアルな反発力を再現してはいても、リアル度においてまだまだ不足。弊社のコンニャク由来製品が認知されれば、需要はこの先10年で10倍、20倍にも膨れ上がると思います」と高山氏は言う。