だが、このプラスチック製トレーニングボックスに関しては、同社内での海外売上比率は1%にも満たない。このカテゴリーの製品は世界に競合があまたあるからだ。
一方、同社のシグニチャー的ヒット製品、コンニャク由来模擬臓器(VTT=Versatile Training Tissue )の競合は、世界広しといえど皆無だ。だから、この製品の同社における海外売上比率は5割にも達する。https://kotobuki-medical.myshopify.com/collections/all
なぜ、「コンニャク製」がそこまでユニークなのか。それは、従来トレーニングに用いられるのは豚であるからだ。代替品として現れた「コンニャク粉」製は動物愛護の観点でもすぐれている上、実際に施術時の「感触」の再現度の高さが抜群だ。
手術支援ロボットトレーニング、新製品プレゼンに革新
手術の技術を研磨したい医師らにとっては「夢」のようなプロダクトなのだが、意外なのは「大手顧客は、トレーニングをする医師や医療施設より、医療機器メーカー」(高山氏)であることだ。たとえば現在、海外大手医療機メーカーや、手術支援ロボット企業などがKOTOBUKI Medicalにとってもっとも大きな取引先だ。医師向けのセミナーや、トレーニングの場面などで、米国を中心とした海外企業が使用しているのだ。これらの企業は従来、そのような場面で豚などを使用しているが、臭気や汚染の問題、処理が煩雑であることが課題だった。そして何より、動物愛護やエシカルな観点からも「豚以外で代替できる分野は、積極的に代替品を取り入れたい」と、豚に代わる製品を探していたところにVTTと出会った。
なお、豚1頭を使用する際の「コスト」も馬鹿にならない。
ところがKOTOBUKI Medicalの模擬臓器は、ECサイトなどで購入、届いたらパッケージのまま室温で保管できるので、棚に積んでおけばよい。
また、病変のある臓器での訓練の場合は、「同じ場所に、同じタイプの腫瘍のある臓器を50個用意する」ことができれば最高だが、これは動物の摘出臓器では絶対に無理だ。その点、模擬臓器ならばある一定の硬さ、一定のコンディションの病変を仕込んだ臓器を必要個数製造し、反復訓練のために提供することができる。
エシカルにして低コスト、無菌なうえ保管がしやすいといった特徴から、まさに手術支援ロボット等の医療トレーニングカテゴリーに革命を起こしたわけである。
だがもちろん、模擬臓器の使い道は手術支援ロボットのトレーニング用途だけではない。医療機器メーカーが同製品を購入する目的の多くは、「自社新製品のデモ」用だ。
たとえばある医療機器メーカーが、患者の体に優しい、新しい超音波メスを開発したとする。そのメーカーのMR(医療従事者に自社の医薬品・医療機器の情報を伝え、販売する担当者)が病院に赴き、医師らに営業する際、「旧来のメスと自社製品とで切り心地がこんなに違う」ことを医師に試してもらう際に、模擬内臓を使用するのだ。