「毎日戦車を失っているロシアのように、緊急に戦車が必要な場合、ダメな戦車でもたくさんあったほうがないよりはいい」とトロストは筆者に語った。だが、戦車を近代的な装備に改修しなかったことで、ロシアは「自ら災いを招いた」とトロストは言う。
世界で最も広く使われている戦車と言われることもあるT-72シリーズは、1972年に生産が始まった。旧ソ連は約2万5000両を生産し、アンゴラからベネズエラ、アルジェリア、イエメンに至るまで世界中に輸出。T-72シリーズはT-80、そしてT-90シリーズに引き継がれたが、現在でも数千両がロシア国内で使われており、近代化が進められているが、改修作業はあまり進んでいない(厳密にはT-80はT-64の後継、T-90はT-72の後継だが、数字は生産年代順となっている)。
ナビなし、夜間は視界不良
T-90Mのような最新戦車とは異なり、T-72B3には衛星ナビゲーションすらない。「できるだけ安い費用で車両を近代化するために、GPSは追加されなかったのかもしれない」とトロストは言う。「だが、車両にこの種のシステムが搭載されていないという事実は、ロシアがどれほど安くあげたかったとしても、馬鹿げている」。
トロストによると、T-72の乗員は民生用のGPSを使うか、あるいはGPSを使わずにT-72に乗っているようだ。T-72がハッチを閉じて走行しているときに時々川に落ちたり、湖に突っ込んだりするのは、有効なナビゲーションシステムを持たないからかもしれない。
また、夜間の戦闘に欠かせない効果的な熱線映像装置も装備されていない。ロシアのメディアの報道によると、T-72B3は現在、3km先の標的を探知できる赤外線システムを搭載しているという。だが、こうした事実は確認されていないとトロストは指摘する。「今のところ、このような装備は戦場で目撃されていない」。
このため、戦車長らは基本的な暗視装置しか持たず、その有効視認距離は500m程度で、有効視認距離がもっと長い最新装置を持つウクライナ軍の格好の標的になっているとトロストは指摘する。熱線映像装置はいま非常に安価で、ロシア軍は使い捨ての1人称視点(FPV)ドローンにまで熱線映像装置を搭載していることを考えると、戦車にないのは奇妙だ。