後進遅く格好の標的に
T-72はまた、より基本的な設計上の欠陥も抱えている。それは、有効な後退ギアの欠如だ。T-72の最大後進速度は時速4kmで、ゆっくり歩くほどの速さだ。ロシアは戦車兵が後退するのを阻止したいのかもしれないが、戦車が地雷原に入り込み、急いで脱出する必要がある場合、戦車長は後進するのではなく、車両の向きを変えざるを得ない。このため、装甲の薄い戦車後部はウクライナ軍の砲やミサイルにとって格好の標的となる。もう1つのよく知られているT-72の弱点は、被弾すると激しく爆発する傾向があることだ。こうなった場合、乗員は即死し、砲塔が宙に高く投げ出されるという、壮大な「砲塔投げ」が起こることが多い。これはT-72の弾薬庫の配置が影響している。トロストによると、T-90Mにはこの問題を軽減するブローアウトパネルがあるが、T-72B3にはそのような対策は施されていないという。
改修されたT-72には、爆発反応装甲のコンタークトが追加されている。これは被弾すると爆発し、ロケット推進てき弾(RPG)や対戦車ミサイル、その他の成形さく薬弾を破壊する。だが、T-72はきっちりと爆発反応装甲に覆われておらず、これが多くの弱点につながっているとトロストは言う。これらの弱点はよく知られており、ウクライナ軍に利用されるだろう。
T-72の近代化はあまりよく練られていないようで、コスト削減のために手抜きされている。汚職や腐敗防止活動を展開する国際NGOのトランスペアレンシー・インターナショナルの調査で、ロシアの戦車メーカーのウラルバゴンザボドが世界で最も腐敗した防衛請負業者のひとつと評価されたのは偶然ではないだろう。
もっと古いT-62の改修にも問題がある。フォーブスのデビッド・アックスが記事で説明しているように、追加装甲の重量がエンジンに負担をかけ、(現代の標準ではすでにパワー不足の)車両を減速させてしまうのだ。
戦車不足に?
安価な改修で多くの戦車が前線に投入されるが、そうした戦車はあっという間に悲惨な目に遭う。ロシアは古いT-72を倉庫から引っ張り出し、ウクライナで戦っている部隊のために改修を全速力で進めているが、備蓄が少なくなっている兆候がある。対戦車弾頭を搭載した大量のウクライナ軍のFPVは今や最も殺傷している兵器のひとつだ。「将来のある時点で、ロシアはまともな方法で近代化するための車両を使い果たすだろう」とトロストは言う。
そうなった場合、ロシアは新しい戦車を生産しなければならなくなる。これができるのは2016年に破綻しかけたウラルバゴンザボドの工場しかなく、そこには近代的な生産ラインはない。戦車の生産は基本的に手作業で、ウラルバゴンザボドの工場では数カ月かけてわずか10両しか生産できないようだ。
ロシアは、備蓄しているT-72を破壊が待ち受ける前線に送るのではなく、きちんと近代化した方がはるかにうまくやれるだろう。ウラルバゴンザボドは2012年にT-72の派生型ホワイトイーグル(別名T-72B1MS)を披露したが、これは改良されたエンジンや第3世代の熱線映像装置、より優れた装甲、さらにはGPS/GLONASSのナビゲーションシステムまで搭載していた。ホワイトイーグルはニカラグアやラオス、セルビアに販売されたが、ロシア軍には販売されなかったようだ。ロシア軍は安い方を求めた。
費用をさほどかけずに改修することで、ロシアはいつものように質より数を求めた。だがこれらの戦車が破壊されているペースを考えると、結局は質も数も逸することになるだろう。
(forbes.com 原文)