欧州

2023.11.25

消えたロシア戦車の謎、200両のT-90Aは今どこに?

ロシア・モスクワで、第2次世界大戦の対独戦勝記念日の軍事パレードのリハーサルに登場した第三世代主力戦車T-90A(Free Wind 2014 / Shutterstock.com)

ロシアのウクライナ侵攻は、歴史上最も詳細に記録されている戦争だ。戦場で実際に起こっていることが高解像度の画像で捉えられ、オンライン上で分析されている。分析の視点は非常に選択的で偏りがちだが、科学的な証拠に基づいて検証できる側面もある。

ロシア軍の戦車の損害を詳細に調査したところ、ある異常が明らかになった。第三世代主力戦車であるT-90Aはほとんど破壊されておらず、ウクライナに広く配備されてもいないのだ。近代的なこの戦車にいったい何が起きたのか。そもそも実在しているのだろうか?

ロシアの新旧戦車群

東西冷戦が終結してからというもの、ロシアは戦車群を刷新する資金に欠け、装甲部隊は大なり小なり近代化改修を施した各種旧式戦車と、T-90Aを含む少数精鋭の第三世代戦車で構成されている。

「ロシアは多くのT-90を保有していることになっている。初期型のT-90は120両、改良されたT-90Aは派生型を含めて369両あるはずだ」と、オープンソース分析を行うアナリストのリチャード・ベレカーは指摘する。「しかし損失が確認されたT-90Aはわずかに34両で、そのうち2023年3月以降に失われたのは3両だけだ。残りはどこへ行ってしまったのか」

軍事上、近代的という言葉は相対的な意味合いで使われる。T-90Aの生産時期は2004~11年で、製造されて約20年になる車両もあるが、ロシア軍が現在ウクライナの前線に投入しているT-80やT-72、T-62やT-55といった旧式戦車よりは明らかに高性能だ。現在のロシア軍はどうやら2番手、3番手、4番手の戦力で戦っているようだ。

ベレカーは、車両の消息が大方把握できて50%以上が破壊されたことがわかっているT-80Uと、T-90Aの数字を比較している。損傷したロシア軍戦車の画像の中にT-90Aが占める割合は、極端に低い。

それは、決してT-90Aが不死身だからではない。T-90Aは現役の戦車の中で最新鋭とはいえないし、改良型のT-90Mは2022年4月からウクライナの前線に投入されたものの、定期的に砲撃やミサイル攻撃、FPV(1人称視点)自爆型ドローンによって撃破されている。T-90Mの生産数は200両未満で、これまでにウクライナで49両(約25%)が損失した。一方、T-90Mよりも防御力に劣るT-90Aの損傷率は、たった7%だ。

ベレカーは、ウクライナ侵攻における兵器の損失状況を画像で確認し記録しているウェブサイト「Warspotting(ウォー・スポッティング)」の数字を用いて、ロシア軍車両の種類別損失数を図表化している。その数字は軍事情報サイト「Oryx(オリックス)」の分析結果とも相似する。時間経過に伴う変化として、侵攻初期に動員された近代的な車両が徐々に姿を消し、より旧式の戦車や兵員輸送車の損失が中心となっていることがわかる。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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