幽霊戦車?
最も多い47.7%の回答者が支持したのは、行方不明のT-90Aはそもそも存在しなかったという説だ。200両のT-90Aがずらりと並んだ写真などはなく、それが実在したという確かな証拠はない。生産数の根拠といえるのは当初の契約に関する報道だけで、メーカーやロシア国防省の発表をうのみにしたにすぎない。この「幽霊戦車」説に従うなら、T-90Aの生産数はプロパガンダ目的で意図的に水増しされていたことになる。軍事パレードに十分な数のT-90さえあれば、ロシア軍は自国民に対しても世界に対しても「近代的な軍隊」の皮をかぶっていられた。一方、兵士たちは父親世代が乗っていたT-72と格闘していたというわけだ。
ベレカー自身はまた別の説をとなえる。「もう一つの可能性、私の考えでは最もあり得る説明は、行方不明の戦車は工場に送られ、T-90Mに改造されようとしているというものだ」
これは保管されていることとイコールではない。戦車の状態を問わず、T-90Mの生産工程を維持するために集めてあるのだ。もっともロシアは、最新のT-90Mはすべて新規に製造したものだと主張している。
ロシアがウクライナで被った驚異的な損失を補填するため前線に投入する「新型」戦車のほとんどが、実際には長期保管されていた戦車を改修・改造したものだ。もし、「プーチンのお気に入り工場」の異名をとるロシアの軍需企業ウラルバゴンザボートが製造するT-90MもT-90Aを改造しただけだとすれば、同社の生産能力は非常に限られていることになる。
「この説が正しければ、ロシアのT-90M生産能力はわれわれが考えていたよりも低い。改造に回すT-90Aを使い果たせば、ロシアは新型戦車の前線投入ペースを落とさざるを得なくなるだろう」とベレカーは言う。
ロシアはすでに、侵攻第一陣に加わっていた戦車の総数よりも多くの戦車を失った。改造して再利用可能な状態の旧式戦車もほとんど残っていないらしいとの情報もある。
プーチンの大きな望みは、ウクライナはともかく西側諸国が先にこの戦争に飽き、ロシア側の意向に沿った平和的解決に持ち込めるようになるまで戦い続けることだ。だがプーチンは今、骨董品も同然のT-72の横に並んで前線を補強できるT-90Aがあと数百台あればと願っているかもしれない。
(forbes.com 原文)