宇宙ビジネスは2030年代に現在の2倍の約2.4兆円規模に拡大するとされ、企業規模を問わず参画が相次ぐ。原口は宇宙産業を支える久留米のものづくり基盤に言及した。
「九州は豊富に採掘された石炭から鉄鋼業が始まり、造船などの産業も各地で発展します。その中で久留米はゴムのまちとして栄えました。地下足袋の製造に端を発するムーンスターやアサヒシューズの発祥の地でもあります。アサヒシューズからは、自動車用タイヤの製造で世界に進出したブリヂストンが誕生しました。
ゴム産業で培われた化学技術、製造技術がハード・ソフト両面から久留米の宇宙ビジネスを強固に支えているのです。私たちは宇宙ビジネスに挑戦するものづくり企業、宇宙スタートアップの支援に取り組んでいます」
成長産業と地域を接続 久留米流の勝ち筋とは
バイオビジネスと宇宙ビジネス、2つの成長産業が久留米経済の推進エンジンになる。ただ、原口は「市内の商工農業が飯を食えるような」──つまり、地元産業にも接続したビジネスとしてドライブさせたい、と語る。これが、地に足の付いた久留米ならではの勝ち筋だ。「バイオテクノロジーというと再生医療や創薬といった医療分野への活用が注目されます。しかし、バイオには品種改良など農業分野、機能性表示食品の開発など食品分野への活用も有力視されています。
久留米市は農業産出額が福岡県内では1位、全国でも28位という農業都市。市は生産者が主体的に加工や商品開発を進め、流通販売を行う6次産業化を支援しています」
宇宙ビジネスも、またしかり。久留米市は製造業だけではなく食品分野からの参入も後押しする。その一つが、宇宙日本食。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する日本人宇宙飛行士に向けて開発が進む。宇宙技術科学シンポジウム「ISTS」では、市内の企業ベストアメニティがスペース雑穀米ぜんざいを発表。宇宙日本食の認証を目指して開発を続けている。
「久留米は飲食関係のフェスタ、イベントがすごく盛んで、市もキッチンカー営業に取り組む事業者への補助金を始めるなど、飲食やイベント出店を応援し、領域を超えてつながってきました。バイオも宇宙も、地元の農業・飲食・食品事業者と国内外のスタートアップが連携したら、また新たなビジネスの種がまかれるでしょう。市はつなぎ役として支援を続け、まだ見ぬ共創に力を入れていきます」
バイオ、宇宙という成長産業のインキュベーターとして機能する久留米市。2023年9月には国土交通省が「久留米南スマートインターチェンジ(仮称)」設置に向けた調査着手を発表するなど、「九州のクロスポイント」としての存在感を高める動きも活発だ。
「2023年7月の九州北部豪雨などでは、久留米ICの周辺が豪雨によって冠水し、支援活動や地域経済の活動に大きな影響が出たこともありました。スマートICは、防災や減災を踏まえて要望したものですが、産業振興の意味合いもあります。新産業団地を建設する構想もあります。バイオや宇宙を地場産業に紐づけ、未来を見据えて、第2のブリヂストンのような新たな成長産業を創出していきたいです」
歴史と地場産業を基盤に、バイオと宇宙の両翼が久留米を成長曲線に乗せていく。九州のクロスポイントから始まる共創が世界へ、そして宇宙へ羽ばたいていく。
原口新五◎久留米市長。1960年福岡県久留米市生まれ。県議員秘書を経て1989年の久留米市議会議員に初当選。2009年に市議会副議長、2011年に議長を務める。2022年の久留米市長選挙に初当選。