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2023.12.01

バイオと宇宙の街に進化 久留米市発「第2のブリヂストン」が生まれる未来

Governor's Letter 09 福岡県久留米市の原口新五市長

地方自治体の首長が、それぞれの地域の「誇れるもの」を語るシリーズ企画「Governor's Letter」。今回は、福岡県久留米市の原口新五市長が登場。筑後川に抱かれし、交通の要衝。酒造りやものづくりで発展し、近年は医療が充実した都市としても知られる。
 
近年になって市場拡大が見込まれるビジネスの企業群が集積するなど、進化を遂げているのをご存知だろうか。キーワードは「バイオ」と「宇宙」。首長が語る成長産業のビジョンとは。


 ライバル自治体は福岡市 産業集積の差別化

豚骨ラーメン発祥の地として知られ、多くの芸能人やミュージシャンを輩出。全国的にも知名度が高い久留米市。筑後平野を流れる九州一の大河・筑後川に育まれて歴史を重ねてきた。九州で初めて県庁所在地以外で中核市の指定を受けた都市でもあり、2011年の九州新幹線開業を経て、要衝としての存在感をさらに高めている。
 
この地が「九州のクロスポイント」と呼ばれるのは、高速道路の路線図を見れば一目瞭然だ。南北には九州縦貫自動車道が北九州から鹿児島、宮崎を通貫する。東西には九州横断自動車道が大分から長崎へと直結。久留米市は、九州の南北軸と東西軸の十字路に近接するロケーションにある。
 
九州経済の交流拠点としてポテンシャルを秘めた都市。市政をリードする原口にライバルとなる自治体をたずねると、彼は間を置かず「やはり、福岡市です」と言い切った。
 
「福岡市で注目しているのは『天神ビッグバン』。九州きっての繁華街・天神エリアでビルを建て替えるプロジェクトです。そして、新たな都市空間をつくって人流を増やし、企業を誘致する。中心部の強靭性を高めると共に、雇用や税収の増加までオールマイティで実現しています。
 
県南部の中核都市としてさらなる発展を目指す久留米市は、福岡市に負けじと進んでいかなければなりません。そのために何が必要なのか──答えはシンプルです。よそにないものをやらなきゃいかん。キラリと光るまちであるために、差別化を意識して経済を盛り上げていかなければ、ということです。そこで「バイオ」と「宇宙」がエンジンになると考え、多くの企業の参入と集積に力を入れているのです」

酒造りのレガシーを基に、バイオ系のスタートアップ勃興 

久留米市がバイオ産業に取り組み始めたのは2000年代初頭のことだ。2001年に産官学が連携して福岡バイオ産業拠点推進会議が発足し、バイオ関連産業の集積を目指して「福岡バイオバレープロジェクト」がスタートした。
 
もともと、久留米には「オールドバイオ」の下地がある。いわゆる、酵母などの微生物を活用する発酵・醸造の技術だ。江戸時代から、福岡県南部は酒造りや醤油醸造業が盛ん。筑後川沿いに並ぶ酒蔵の数は神戸の灘や京都の伏見と並んで日本トップクラスだ。さらに原口は「バイオの下地になっているのはもう一つ、わが市が医療の街だということです」と続けた。
 
「さらに、人口10万人あたりの医師数は中核市の中でトップクラスで、32の病院と300を超える診療所があります。市民が安心して住めますし、小児救急医療が充実していることから子どもを育てやすい。そして、久留米大学医学部など多くの医療・研究機関が集積しています。産業振興の面から見れば、創薬系のスタートアップに訴求できるでしょう。高度医療機関、研究所との連携には最適ですからね」
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文=佐々木正孝 写真=菅 祐介

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