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2023.11.28 09:00

全国拡大中!「雑談×AI」のポジティブ認知症予防策

大柏 真佑実
「昨今、電話で話すだけで認知機能をチェックできるサービスなど、認知機能を測るサービスは世の中に複数あります。認知症はその前段階、MCI(軽度認知障害)の状態で発見し、治療することによって16%~40%の確率で回復するという検証結果もありますが、シニアの方には検査を受けたがらない方も多い。そのため当社ではあえて検査ではなく、高齢者の方にオンラインのコンテンツやコミュニティをご利用いただく中でデータを収集し、AIエンジン『Cognivida(コグニヴィーダ)』で認知機能を推定するスキームを構築しています」(井上)

「Cognivida」は、ジョージ・アンド・ショーンが2017年から開発を行っている生活習慣から認知機能を推定するAIエンジンだ。現在、同社は「Cognivida」を拡張し、藤田医科大学(※)や三井住友海上らと共同でオンライン通話の情報から認知機能を推定できるように進めている。開発では、その特徴を実現するための苦労があった。

※ 愛知県「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」での共同開発

同エンジンでは、認知症検査として一般的な面談や診察などでの特定会話からではなく、自由会話の中から対象者の目線や韻律、発話数、リアクションまでの時間といった複数の情報を集め、総合的に認知機能を推定する。そのため特定会話など、単一の情報から推定する場合と比べ、エンジン開発の難易度が大幅に上がるのだ。

同社では、特定会話による認知機能検査を受けている高齢者の様子から、自由会話でも比較的取得しやすい情報とは何か、時間をかけて一つひとつ割り出し、「Cognivida」のパラメーター(値)として取り入れることに成功した。
「Cognivida」による認知機能推定時の解析動画

「Cognivida」による認知機能推定時の解析動画

さらに、シニアに継続的にオンラインのコンテンツやコミュニティを利用してもらうことで、継続的に測定データを取得。経年変化を追いかけられるようにし、入力する情報量を増大させることで、認知機能推定と改善策提案の精度を向上させていく予定だ。

しかし、認知機能の異常が発見されたとしても、それを高齢者本人や家族が受け入れるかどうかは別問題だ。どのように介護をしていくのか、それまで自家用車だった移動手段をどう代替えするのかなど、本人と家族にはいくつもの課題が降りかかってくる。井上は、そこにオンラインコミュニティ創出事業の肝があると話す。

「まずは、予防も兼ねてみんなで人生を楽しみ、一緒に歳を取っていこうという雰囲気をコミュニティに生み出していきたいんです。そうすることで、例え認知症になってもみんなで受け入れてポジティブに過ごしていこうとする文化を醸成できます」(井上)

「新しい生きがいができたよ」

提供するコンテンツは、語学や音楽、ヨガ、スマホ体験教室などのオンラインレッスンからオンライン旅行まで、多岐にわたる。講師は、市内で活動する個人事業主が中心だ。コンテンツパートナーとして、クラブツーリズムやシニア向けオンライン・フィットネスサービスの展開を進めるミズノも名を連ねる。

ジョージ・アンド・ショーンがこれまで提携してきた全国13の自治体との繋がりを生かし、神戸市在住のシニアと全国のシニアとを結ぶオンラインイベントも実施。例えば、鹿児島県の薩摩芋農家と結び、神戸市在住のシニアが美味しい薩摩芋スイーツの作り方を学べる講座も開催した。
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文=大柏 真佑実

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