経済・社会

2023.11.26 08:30

北京では何も見えない何も聞けない 対話と協議は本当に可能なのか

Aritra Deb / Shutterstock.com

日本は苦しみながら、今年初めから対話再開に向けた手を打ってきた。2月、米本土での中国偵察気球撃墜事件が起きるなか、日本は中国が提案した安保対話の開催を受け入れた。5月には日中防衛当局間ホットラインの開設にもこぎつけた。日本政府は当時、徐々に対話を増やしたうえで、岸田首相の訪中実現を模索していたという。関係者の1人は当時、「(2020年春にコロナを理由に延期されている)習近平氏の国賓訪問は消えていないが、国内世論を考えた場合にハードルが高すぎる。まずは、首相訪中を実現したい」と語っていた。少なくとも、日中外交当局間ではこの方針が共有されていたという。
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しかし、今年8月に南アフリカで開かれた新興5カ国(BRICS)首脳会議後、この動きは一時全面ストップした。関係者の1人は「おそらく、中国外交部が上げた提案を、習近平氏が拒否したのだろう」と語る。習氏は保健衛生や国家安全保障を強調していたため、福島第1原子力発電所から出た処理水の海洋放出に強く反応したとみられた。そればかりか、中国は日本産水産物の全面禁輸を発表。永田町では「外務省は事前に情報を把握できなかったのか」という非難の声が渦巻いた。外務省も情報収集をしたくても、手も足も出ないという状況だったのだろう。

さらに、中国では今年に入り、秦剛外相と李尚福国防相が相次ぎ、行方不明になったあげく、解任されるという騒ぎが起きた。習近平氏が指導する中国はもともと、法の支配が弱かったが、習氏が自ら承認した人事すらひっくり返される事態が起き、中国高官たちは我が身を守ることで汲々としている。韓国の専門家たちは、忠誠心競争で必死になる中国人たちを「中国の北朝鮮化」という言葉で揶揄している。

米国も中国との間で対話と協議のチャンネルを増やす努力をしている。しかし、それは何らかの合意を得る目的があるからではなく、偶発的な衝突が全面戦争に発展しないようにする保険としての意味しかない。逆に言えば、米中はいつ、偶発的な衝突が起きてもおかしくない状態に陥っているとも言える。
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日中両首脳は16日の会談で、処理水の海洋放出と水産物禁輸の問題を対話と協議を通じて解決することで一致したという。今月末に韓国・釜山で開かれる日中韓外相会議や、それに続いて開かれる日中韓首脳会議を経て、来年前半にも岸田首相の訪中を実現させたいという腹積もりなのだろう。だが、それは外交当局間などの協議と調整があってこその話だ。同じく、中国との対話の強化で合意した米国と同様、日本政府も引き続き、いばらの外交を強いられることになる。

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文=牧野愛博

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