欧州

2023.11.18 10:00

ドニプロ川左岸の橋頭堡周辺、ロシア軍滑空弾の猛火にさらされる

遠藤宗生

ロシア空軍のSu-34戦闘爆撃機。2017年7月、モスクワ州で(Viacheslav Lopatin / Shutterstock.com)

10月19日、ウクライナ軍の海兵たちは、南部ヘルソン州のドニプロ川をすみやかに渡り、ロシアの支配下にある左岸(方角で言えば東側)の幅5km弱の集落クリンキに上陸すると、一連の歩兵行動に着手した。その後数週間のうちにロシア軍の部隊はクリンキから退却し、ウクライナ軍の部隊は塹壕(ざんごう)を掘って陣地を築いた。

1年前、ウクライナ軍は迅速な反攻でヘルソン州北部を解放し、ロシア軍をドニプロ川左岸に駆逐した。現在の反攻ははるかに慎重だが、果敢な電子戦作戦の支援を受けながら、川沿いからロシア軍をじりじりと後退させている。

ロシア軍は、機械化戦力を駆使した反撃に出れば、ウクライナ軍の海兵隊部隊を右岸側に押し戻せるとも考えられるが、そうした反撃を思うようにできていない。代わりにロシア軍が用いているのが、大規模な航空火力だ。ロシア空軍はこのところ、ドニプロ川の両岸で長射程の精密滑空弾による爆撃を強めている。

ロシア側はクリンキ橋頭堡(きょうとうほ)にいるウクライナ兵を撤退に追い込めない場合、橋頭堡の爆破を試みるかもしれない。ロシア軍が撃ち込んでいる強力なUMPK(汎用滑空修正モジュール)弾は、ウクライナの兵士らがロシア軍のあらゆる兵器の中でもとくに最も恐れてきたものでもある。

この滑空弾が、ウクライナ軍の中で最も前方に出ていて、最も敵側にさらされている部隊を守る、非常に小さな拠点に襲いかかっている。もしかすると多数降り注いでいるかもしれない。

ウクライナ軍の海兵たちがクリンキに上陸してから3週間後、ドニプロ川左岸を守備するロシア軍部隊は、自軍に問題があることに気づいた。「橋頭堡が築かれたエリアは、わが軍側では非常に弱い部隊によって守られていた」とロシアの軍人は書いている

この軍人は「橋頭堡の構築は、そこにほかのエリア、たとえばロボティネ近辺から、戦闘態勢にあるわが軍の部隊をできるだけ多く引き寄せ、撃滅するという任務を負っている」との見方も示している。ヘルソン州の東のザポリージャ州にあるロボティネは、ウクライナ軍の陸軍と空中襲撃軍(空挺軍)の部隊が今年の夏に解放した集落だ。

ウクライナ軍は、ロシア軍のこうした「火消し部隊」(防御が崩れそうな区域に急いで増援に回される連隊や旅団)がドニプロ川左岸に来ると、その部隊がもともといたエリアを攻撃することが多い。自軍の行動によってロシア軍の防御線に防御の手薄な場所をつくり出し、そこを突くという戦術だ。

「敵は最小限の損害で迅速に勝利できる弱点を見つけようとするだろう。わが軍に残された最後の予備はそこに引き寄せられ、撃滅されかねない」と前出のロシア軍人は懸念を示している。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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