大手商業銀行を対象に行われた研究によると、上司と部下がともに喫煙者である場合、そうでない場合と比べて、上司と部下がともに過ごす休憩時間が63%増加し、部下の給与は2年半の間に18%余分に上昇する。つまり、非公式コミュニケーションが特定のグループの人に限定されると、組織の多様性や包括性に影響を及ぼす可能性があるのです。
上司はこのグループの構成員ではない人が不利にならないように意識すべきであり、組織としてもランチやコーヒーブレイクなど誰もが公平に非公式コミュニケーションを図れる機会の創出が求められます。
もうひとつ興味深いデータを紹介しましょう。
米国の研究によると、ファイナンシャルアドバイザーが同じ会社で同じ類いの不正を行った場合、離職につながる確率は女性のほうが男性より20%高く、離職した人のうち1年以内に同職種に復帰できる確率も女性のほうが30%低い。ここには「女性は悪いことなどしない」という思い込みが影響していると私は考えます。その“あるべき女性像”からずれると、男性以上に強烈に批判される。
同様のバイアスは組織の至るところに存在し、知らず知らずのうちに格差を加速させています。だからこそ、賃金、役職、業務、処罰など多方面から組織内の男女差を可視化して実態を把握することが第一歩になるのです。
日本に今ある男女格差は、あえてとらえ直すならば「伸びしろ」と言えます。女性という有効資源を十分に活用できるようになれば、国の経済にとって大きなプラスになるはずです。
同時に、子どもたちに対するジェンダー教育も重要です。教育はジェンダー意識の形成に非常に強い影響を及ぼすことが証明されています。
社会の一部分だけではなく、あらゆる世代や階層に働きかけ、多様性を維持するための努力を続ける。これがあってこそ、真の女性活躍を実現できるのではないでしょうか。
やまぐち・しんたろう◎1976年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、米ウィスコンシン大学マディソン校で経済学博士号(Ph.D)を取得。カナダ・マクマスター大学准教授などを経て、2019年より現職。『「家族の幸せ」の経済学』でサントリー学芸賞受賞。専門は「家族の経済学」と「労働経済学」。新著に『子育て支援の経済学』。